第45章 願う声は届かない
「万次郎くん…」
「子供にオレの奥さんは世界一だって自慢して、子供の前でもラブラブでいんの。たまにはオレら4人でダブルデートしてさ、オマエとカノの行きたい場所に全部付き合って…幸せそうなオマエとカノを見て、オレらも笑うんだ」
眉を八の字に寄せ、無理に明るく笑うマイキーの表情は泣きそうにも見える。震える声で未来を語るマイキーの声はもう…エマには届いていなかった──……。
◇◆◇
「稀咲、替え玉を出頭させた。これでオマエが捕まる事はない」
「……………」
ビルの屋上の貯水タンクに腰掛けながら、そこから見渡せる街をじっと見つめる稀咲。
「オレがマイキーを一番知っている。そういう自負がある。人の上に立つ為に必要なのは"頭(ブレーン)"じゃねぇ"容貌(カオ)"だ。マイキーという"容貌(カオ)"は人の上に立つ至高の"媒体"」
イザナは稀咲の話を黙って聞いている。
「アイツは今の東卍の奴らと一緒にいちゃダメだ。せっかくの才能が潰れちまう。だからオレが手を加える必要があった」
「ふん、勝手な話だな」
稀咲は立ち上がり、ポケットの中に両手を突っ込み、イザナの話を無視して続ける。
「その為に目障りなドラケンを殺す計画を立てた。ドラケンに恨みを持つ"清水将貴(キヨマサ)"を使ってな。あと少しで殺せるってとこで邪魔が入った、花垣武道だ。」
「たいした奴には見えなかったナ」
「あいつのせいでドラケン殺害計画が失敗した。次に考えたのは芭流覇羅というチームを創り、マイキーをトップに据える計画。それを邪魔したのが場地圭介だった」
「…血のハロウィンの犠牲者か」
「だから"羽宮一虎"を使い、場地を殺すように仕向けた。邪魔なもんは消しちまえばいいんだ」
「……………」
物騒な言葉を吐いて、稀咲は自分の掌を見つめる。
「何をやっても満たされねぇオレの心は…最愛の者を失っていくマイキーを見て高揚した。あぁ…こいつを"媒体"にしてオレはもうすぐ生まれ変わるってね」
「…その仕上げが"佐野エマ"か…?」
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