第45章 願う声は届かない
「…あれ?」
ふと脳裏を過ぎったのは、黒髪のマイキーの顔だった。
…現代(みらい)の万次郎くんは闇堕ちしてる…
『オレの人生は苦しみだけだった』
「……………」
私が万次郎くんの前から消えて
それが闇堕ちを生んだ原因だったとしても
彼にはエマちゃんの存在があったはずだ
「二人共、何か飲む?」
「あ、うん」
自販機に向かうエマの後ろ姿を見て、カノトは驚いた顔で固まる。
「(…エマちゃんって現代‹みらい›にいたっけ?)」
飲み物を三つ抱えてこちらに戻って来るエマ。すると遠くからバイクの排気音が聞こえた。
「!?」
「(あのバイク、スピード出過ぎじゃ…)」
「え!?」
「ん?」
「(っ!?よく見ると後ろの奴!手にバッド握ってる!!)」
一台のバイクが猛スピードでこちらに向かって走行してきた。遠目では分からなかったが、近付いて来るにつれてハッキリと見える。運転している人物の後ろでヘルメットを被った相手が両手にバッドを握り締めていた。
「タケミチくん!!エマちゃん!!」
咄嗟に二人の名前を呼ぶ。
「うおおお!!」
「稀咲!!?」
「早く逃げて!!」
嫌な予感がして、焦ったカノトが近くにいる二人に向かって叫ぶ。
「(稀咲!!だとすると運転してるのは…半間!!タケミチくんを襲うつもり!?)」
けれどバイクが向かう先にいたのは…
「(違う!!狙いは…!!)」
慌てて駆け出し、手を伸ばす。
「エマちゃん───!!」
あと数センチで届くという距離で、二人の間をバイクが横切った。するとすぐに凄まじい音が耳に響く。
カァァァン!!
稀咲にバッドで頭を殴打されたエマの体は軽く吹き飛び、ドサッと地面に倒れ込んだ。
「エ…マ…ちゃん…?」
タケミチもカノトも何が起きたのか理解するまでに数秒掛かった。ただ地面に倒れているエマの頭からは血が流れている。
「(嘘だろ…稀咲。エマちゃんを狙ったのか!!?)」
「終わりだ、花垣武道」
仕事を終えた稀咲は半間が運転するバイクで走り去って行った。
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