第43章 執着は時として狂愛に
「(お前は俺が守ってやるから、兄貴なんて存在、忘れちまえよ。あー…コイツの記憶から俺以外の奴を消す方法ねーかな。)」
物騒な事を心の中で呟き、マドカに対しての恨みが募り始める。
「あ、ねえ!昨日聞くの忘れちゃったんだけど、あなたの名前、なんて言うの?」
「…何、俺に興味持ってくれンの?」
「うん!私、あなたのことが知りたい!」
「(あぁ勇者チャンが俺のことを知ろうとしてくれてる。こんなクソみてぇな俺の名前を…。やっぱり、運命だったなァ。)」
「どうしたの?」
「いやァ?勇者チャンは優しいなって。今お前は俺だけを映してくれてンだもんな。俺との距離を縮めようとしてくれてる。だから嬉しくて嬉しくて…」
「だってあなたとお友達になりたいんだもん!」
「……友達?」
「そうだよ!友達!」
自分に興味を持ってくれた事に感激し、舞い上がっていた少年の不気味な笑みがカノの一言で一瞬にして消える。
「(…なんだ、勇者チャンが求めてんのは上辺だけの関係か。フ、ハハ…ダメだわそれ。俺が求めてんのは、勇者チャンが俺だけを好きになってくれる、そんなトクベツな関係だ。だから…"友達"から"トクベツ"に持ち込まねえと。)」
スッと狂気の孕んだ瞳を宿し、無表情を浮かべる少年。
「(いきなりはまずいな。強引に迫って勇者チャンに嫌われたら元も子もねえ。コイツを逃がさないようにする為には…時間をかけて追いつめる必要がある。そうだ…絶対に勇者チャンは俺の事を好きになるんだから焦る必要なんてないよな──。)」
少年は自分がおかしいことに気付いていない。狂気を孕んだ瞳にも、歪んだ恋にも。一方的に好きをカノに押し付ける少年は───また不気味に、ニヤリと笑った。
「──×××。」
「!」
「俺の名前、×××。×××××だ。ちゃあんと覚えろよ、勇者チャン」
名前と苗字まで親切に教えてくれた少年に、カノは嬉しそうに笑う。
「…×××くん。うん!ちゃんと覚えたよ!」
「(俺の考えてる事、勇者チャンは全然気付いてねェんだろうな。まァ気付かれて、逃げられても困るんだけど。このままコイツを捕まえておくか。)」
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