第43章 執着は時として狂愛に
「…じゃあ俺が兄貴に勝ったらおま──」
「あ!兄さんの蹴りがアイツに当たった!」
少年の言葉を遮り、嬉しそうに笑うカノ。マドカは男の腕辺りに手加減気味に蹴りをお見舞いした。
「(まだ話の途中だろうが…。さっきまで俺のこと見てたのに、もう兄貴しか眼中にねーのかよ。)」
少年は不機嫌そうに顔をしかめた。そして全く歯が立たない相男の息が上がってきた頃、マドカはギロッと睨みつける。
「なぁクソガキ。本当はテメェを殴って病院送りにしても良いんだけどよ」
「!?」
「流石に"喧嘩"と"暴力"の意味を履き違えるのは駄目だからさ…今回だけは見逃してやる。だから…二度とこの公園にも俺の妹の前にも現れんじゃねーぞ」
「っ…………」
「分かったらそこに転がってる役立たず共を連れて、さっさと此処から消え失せろ…!!」
「は、はひぃ…!!!」
マドカの怒鳴り声にビクッと体を震わせた男は情けない声を上げ、気絶している他の二人をバシバシと叩き起し、逃げるようにして三人とも公園から走り去って行った。
「帰るぞカノ。お前と猫の手当てしねえと」
「あ……」
マドカに駆け寄ろうとして、何かに気付いたカノは心配そうに少年を見る。
「行けよ」
「うん!」
素っ気なく言った少年に、元気よく言葉を返し、子猫を抱いたまま、マドカに駆け寄る。
「あ!」
「?」
「助けてくれてありがとう!またね!」
「!」
マドカに抱っこされたカノは笑顔で手を振る。マドカはチラリと少年に目を遣った後、すぐに公園を出る。カノは少年の姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。
「(そうか…"また"があるのか。もし出逢ったことが運命なら…俺とアイツはまた会える。このままサヨナラなんて…させるわけねーだろ?)」
ニヤリと不気味に笑った少年の瞳は、カノに対しての執着心と狂気が孕んでいたのだった…。
.