第43章 執着は時として狂愛に
「(コイツって、自分より強い相手に何度やられても、勝つまで挑み続ける、クソ弱ぇ勇者みたいだな。)」
御伽噺に出てくるような勇者のように、今のカノは勇ましく、カッコよかった。
「ハハ…あーそうか。そんなに死にてぇんだな。だったらテメェから殺ってやるよ。覚悟しろクソガキ──!!」
カノは身の危険を感じ、子猫を守るように体を丸め、ギュッと目を瞑る。
「(ここで俺が助けたら、コイツは俺をカッコイイって褒めてくれるよな。もっともっと…好きにならせないと。だってコイツは俺を好きになるんだから。)」
一方的に好意を向ける少年は、男がブチ切れて振り上げたナイフからカノを守ろうと駆け出そうとした時──……。
「──おい。」
その場に響いた声に、空気が凍りついた。
「!!」
男はピタッと振り上げたまま、ナイフを持った手を止める。
「そのナイフ、どうする気だ…?」
ドスの利いた低い声は、強い怒りが含まれている。ビクッと体を跳ねさせた男はそこに現れた人物を見た途端、一瞬で顔を青ざめた。
カノは閉じていた目をそろ…と開け、声のした人物を視界に映す。
「…兄さん!!」
マドカが助けに来てくれたことで、あれほど怖かった気持ちが一瞬で吹き飛び、安心したような顔で嬉しそうに笑うカノの目に涙が浮かぶ。
それを見た少年の顔が不快そうに歪んだ。じっとマドカを凝視したまま、敵意を含んだ目を向ける。
「テメェ…それで誰を傷付けようとした?まさか…そこにいる可愛い俺の妹じゃ…ねえよな?」
「ひっ……!!」
知らない男が大事な妹を傷付けようとしている事にマドカは酷くご立腹だった。今にも殺しに来そうな眼差しと、憎悪と恨みを纏ったオーラを溢れさせ、握り締めた拳は怒りで震えている。
さすがの男もぶちギレ顔のマドカに怯え、持っていたナイフを地面に落とした。
「な、なんだよお前…!」
「そこにいる可愛い妹の兄貴だけど」
あまりの気迫にビビる男。マドカが発した声は無機質で、顔は怖いほど無表情。そんな状態でこちらに近づいてくるマドカ。
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