第43章 執着は時として狂愛に
「素手でも勝てる自信しかねェよ♥」
「あなた…喧嘩したことあるの?」
「言ったろ、喧嘩上級者だって。それに歌舞伎町じゃちょっとした有名人だからなァ」
「そうなの?」
「つぅか、お前は俺のことなんて気にすんな。どうせ会うのもこれっきりだからな」
「(喧嘩三昧の日常の中にいるのかな…?)」
「ごちゃごちゃ喋ってんじゃねーぞ!!こっちはお前らを傷付けることなんて簡単なんだよ!!それともこのナイフが偽物だと思って余裕かましてンのか!?あァ!?」
「(このままじゃまずい…!!本当に怪我したら大変だよ!!それに…私が怪我したら…兄さんが悲しむ。)」
そう思ったカノは勇気を振り絞り、子猫を腕の中に抱えたまま、二人の間に割って飛び込んだ。
「!?」
これには少年も驚き、目を丸くさせる。
「卑怯者!!勝てないからって武器を使うなんて臆病者のすることだ!!"そんなもの"を使わないと勝てないのか!!」
「あ?」
「(こわい…こわくて涙が出そう。でも、こんな奴に気持ちで負けたらダメだ…!!)」
「テメェからやってやろうか?」
「そんな脅しは利かない!!お前なんかに傷付けられても負けるもんか!!何度やられたって絶対に諦めないんだから…!!」
その勇敢な後ろ姿を見た途端、少年は心が揺さぶられたのと同時に、ゾクッと興奮にも似た感情の昂りを覚えた。それは先程、カノの泣き顔を見た時の感覚に似ていた。
「(なんだ…この気持ち?喧嘩してる時とはまた違う意味ですげェ興奮する。コイツを見てると…目を奪われる。心臓もなんか痛てぇし…ガキに興味ねぇはずなのに…)」
強気な眼差しを宿すカノの体は、怖いのかぷるぷると震えている。それでも必死に男に立ち向かう姿を見て少年はふと笑った。
「(あぁコイツ…俺のモンにならねえかなぁ。このまま攫って、人目のつかない場所に監禁して、俺だけを見てくれれば…あの笑顔を俺だけのものに───。)」
歪んだ愛情が、狂気として瞳に宿る。それが少年にとって初めての一目惚れで、恋に落ちた瞬間だった──。
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