第43章 執着は時として狂愛に
「!」
すると少年は何かに気付き、ニヤリと笑う。
「まだくたばってなかったのか」
「え?」
少年の視線は自分の後ろに向けられている。カノが振り返ると、少年に瞬殺されたはずの男が一人、よろめきながら立ち上がり、ギロッと鋭い眼光でこちらを睨み付けていた。
「(あれだけボコボコにされておいてまだ立ち上がる気力があるなんて…!)」
ハッとしたカノは慌てて子猫を抱き上げる。こうしている間にも、子猫は少しずつ衰弱し始めていた。
「ヒャハ♥」
愉しげに笑った少年はカノの横を通り過ぎ、前に出ると、狂気を孕んだ瞳を、今にも殺しに来そうな男に向けている。
「立ち上がったってコトは…死ぬ覚悟があるってことでいいんだよなあ?」
「……………」
「……あ?」
男が取り出したモノを見て、愉しげに歪んでいた顔が一瞬で消える。年下に侮辱され、恥を欠かされた事に苛立ちが治まらないのか、男は隠し持っていた折り畳みナイフを手にしている。
「(ナイフ!?何であんなモノ持ってるの!?まさかあれで私達を切りつけようと…)」
「なにお前、勝てねぇからって"ソレ"で俺を殺すつもりか?ハッ、ダサすぎ♪」
「うるせェ…卑怯だとでも言いてぇのか?」
「まさか♪俺も武器使って相手潰したコトあるし、今更卑怯なんて思わねーよ」
「テメェ…喧嘩慣れしてんな。それも半端ねぇ強さだ。何者だよ?」
「喧嘩上級者♥」
そのナメた態度に舌打ちをする。
「そこのクソガキと一緒にテメェも殺してやる。素手と武器じゃどっちが勝つかなんて分かりきってんだろ?」
少年は前を向いたまま、後ろにいるカノに言う。
「あー…おいガキ。その猫連れてさっさとどっか行け」
「え?」
「親猫探しは一人でガンバレ。どうしても見つからなきゃ交番にでも行け。おまわりさんが保護してくれンよ」
「あなたは…?」
「こっちはまた楽しいコトが始まんだ。ここにいられてもお前は足でまといだからよぉ…近くにいると邪魔♪」
「で、でも…あっちはナイフ持ってるよ!?素手じゃ勝ち目なんてないよ…!」
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