第1章 タイムリープ
嬉しそうに笑ってマドカに手を振る。顔を正面に戻すとカノは泣きそうな顔で笑う。もう会えないことは知っていた。だから胸が張り裂けそうなほど、辛かった。
「(でも、今日の夢は絶対に忘れない。兄さんとの…たった数分の、幸せな夢の記憶だから。)」
マンションを離れ、導かれるようにして公園へとやって来た。そこにはブランコを漕ぐタケミチと一人の少年がいた。
「タケミチくん!!」
「え!?カノちゃん!?」
「線路に落ちたから心配したよ!ていうか何その怪我!?ボロボロじゃん!?平気なの!?」
「おう、それはヘーキ。つーかカノちゃん、まさかオマエまでいるとは思わなかった。しかも男装姿に戻ってるし…」
「気付いたらこの格好で…って、その子は?」
「あ…初めまして。橘直人です…」
「橘…直人…?」
カノはタケミチを見る。
「橘日向の弟」
「え!?ヒナちゃんの弟くん!?」
橘直人と言えば、東京卍會の抗争に巻き込まれて姉の日向と一緒に死亡したはずだ。なのに目の前にいる中学生くらいの男の子は橘直人と名乗った。
「(どういうこと…?)」
「あの……」
「あ、あぁ…わた…、…………。」
「?」
「…初めまして。僕は宮村心叶都。カノトでいいよ。よろしく、ナオトくん」
「カノトさんも姉ちゃんの友達なんですか?」
「うん」
「そうなんですね…」
「(橘直人…。12年後に死んでるはずじゃ?)」
「あの、さっき言ってた…線路に落ちたって?」
「ぶっとんだ話だけどよ、2017年の今日、オレ、駅のホームから線路に落ちてさ。その時にコイツも一緒にいたんだよ」
「(やっぱり落ちたんだ…)」
「死んだと思って気付いたら中学生。12年前の今日だった。これってなんて言うの?」
「タケミチくん、まさか…」
「タイムリープ!?」
「そう!!それそれ!」
「まさか…本当に…?」
タケミチはブランコから立ち上がる。
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