第1章 タイムリープ
「(兄さんが…夢の中で生きてる。)」
数ヶ月前、マドカは突然この世を去った。その日はカノの誕生日の前日だった。マドカは誕生日プレゼントを買い妹の待つ家に帰る途中で、東京卍會の抗争に巻き込まれて亡くなってしまった。
「今日はお前の好きなハンバーグだぞ!デミグラスソースも作ったんだ!きっとお前も笑顔になるぞ!だから…もう泣くな」
ぽんぽっと頭を優しく叩かれる。
「兄さん…」
「ん?」
「ありがとう」
「?」
「まさか夢の中で兄さんに会えるなんて思わなかったから嬉しかった。今日は久しぶりにぐっすり寝れそう」
「…カノ?」
目尻に涙を浮かべたまま笑う。そして最後に真剣な表情でマドカに言った。
「兄さん。お願いがあるの」
「お願い?」
「今年から私の誕生日の前日は絶対にどこにも出かけないで。ずっと家にいて。」
「でもお前の誕プレ買わないと…」
「じゃあ通販で頼んで。絶対に前日…ううん、当日も家から一歩も出ないで」
「……………」
「お願い…」
泣きそうな顔で俯き、掌をギュッと握り締めるカノに、何か理由があるんだろうと知りつつも、それ以上は追求せず、笑みを浮かべて優しい笑顔と声で言った。
「オマエがそこまで必死にお願いするなら…分かった。オマエの誕生日の前日と当日は家から出ないことにするよ。誕プレも通販でいいのがあれば見つけとく。それでいいか?」
「うん…!ありがとう兄さん!」
「(昔から妹のこの笑顔に弱いんだよなぁ…まあ、天使だから仕方ないな、うん。)」
マドカが一人でうんうんと頷いているとカノが明後日の方向に顔を向ける。
「(彼が、呼んでる。)」
そんな気がした。
「ごめん兄さん!ちょっと忘れ物したから取りに行ってくる!」
「は?おい!女の子が夜道を一人で出歩くなよ!危ないだろ!車で送るって!」
「大丈夫!すぐそこだから!」
「カノ!!」
エレベーターに向かおうとして、マドカに呼び止められ、後ろを振り向く。
「何かあったらすぐ兄ちゃんを呼べよ。電話一本でどこにだって駆けつけるからさ!」
「…うん。ありがとう兄さん!」
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