第38章 君の代わりなんて誰ひとり
「あるわけないだろ。確かに昔、海凪の事が好きだった。でもアイツには一度フラれてんだ。その時にオレの初恋は終わった。それからカノと出逢って好きになってからはずっとオマエ一筋だよ。前にも言ったじゃん」
マイキーはそう言って笑う。
「それに…海凪は兄貴が好きなんだ。ガキの頃からずっと」
「え?」
「でも結局アイツの恋は叶わなかった。海凪は今でも兄貴の死を引きずってんだ。アイツは兄貴が死んだ日から前に進めないでいる。オレにはオマエがいるけど、海凪には一緒に歩んでくれる奴はいねえんだ」
「本棚にあった赤い花の押し花は…?」
「赤い花の押し花?…あぁあれか。確か海凪が真一郎の為に摘んで作ったんだよ」
「真一郎さんの為に…?」
「でもさ、赤って言えばオレのイメージカラーじゃん?オレと色が被るからやめとけって言ったのに、"真兄は赤が似合うの!"って怒って利かなかったんだ。まぁ…その押し花も兄貴に渡せなかったんだけどな」
「(てっきりあの押し花はマイキーくんの物だと思ってたけど…海凪ちゃんが真一郎さんにあげる為に作ったんだ。)」
「なぁカノ、いっこ我儘言っていい?」
「本当に一個だけですか?」
「やっぱ二個」
「…どんな我儘ですか?」
「一個目、好きって言ってオレのことぎゅーって抱きしめて」
その可愛い我儘にキョトンとして微笑む。
「いいですよ」
マイキーの首に手を回し、ぎゅーっと抱き着く。今まで触れられなかった分を込めて。
「好きですマイキーくん、大好き」
「足りない、もっと好きって言って。あと世界一愛してるも付け加えて」
「我儘一個増えてないですかそれ」
「好きと愛してるはセット」
「(…セットはズルい。)」
相変わらず我儘大王のマイキーに呆れつつも、彼の我儘は何でも聞きたい。そう思う。
「好き、大好き。世界一愛してますよマイキーくん」
「うん、オレも好き、大好き。世界一愛してるよカノ」
満足そうに笑うマイキーもぎゅーっとカノトを抱き締め返す。
.