第38章 君の代わりなんて誰ひとり
「そのせいでオマエを深く傷付けたよな。凄く、凄く、オマエを悲しませた。しかも…女であるオマエを本気で殴っちまった」
体を離したマイキーは湿布が貼られている頬へと手を伸ばし、辛そうな顔をする。
「カノに嫌い、大嫌いって言われて、すげー心が痛かった。何より、オマエの言葉が…響かなかったオレの心にずしんって重くのしかかったんだ」
『私一筋って言ったのも嘘なんでしょ!?ずっと心のどこかで私と海凪ちゃんを重ねて見てたんでしょ!?本当は傍にいてほしいのは彼女なんでしょう!?』
「あの時のオマエすげー泣いてて、どうしたらいいのか分からなかった。でもその理由はオレがオマエを裏切ったせいだ。泣くほど傷付いたんだよな?オマエの目の前で…海凪にキスしようとしたオレを許せなかったんだよな?」
「……………」
「でも信じてくれ。オレが今まで伝えてきた言葉も行動も、全部オマエだからなんだ。海凪を通して見た事なんて絶対にない。ハグもキスもそれ以上のことも…カノだからしたいって思うんだ」
申し訳なさそうな顔で、こつんっとおでこを合わせてくる。
「すげー好きだよ。本当に大好き。世界で一番オマエを愛してる。ずっと傍にいろってオレから約束させておいて、オレがそれを破ってごめん。もうオマエだけだって誓う。だから…頼むから…オレを好きにならなければ良かったなんて…そんな悲しいこと言うなよ…っ」
弱りきったマイキーの口から呟かれた言葉。悲しげに伏せられた目。今にも泣きそうな声。マイキーは縋るようにぎゅっと苦しくない力でカノトを抱きしめた。
「オレを独りにしないで。これからもずっとオレの傍にいて。オレだけを好きになって。オレを一生、愛して…」
「(なんて重い愛…。でも不思議と嫌じゃないのはきっとこの人が好きだから。悠生くんの時は死ぬほど吐き気がしたのに。)」
マイキーの愛はどんな形でも欲しいカノト。それが軽くても重くても、大好きな人から貰える愛なら何だって受け取る。
「…一つだけ、教えてください。マイキーくんが記憶を失う以外で、一瞬でも海凪ちゃんに心が揺らいだことはありますか」
「……………」
抱きしめていた体を離し、マイキーはじっとカノトを見つめる。
.