第38章 君の代わりなんて誰ひとり
佐野家に着いてもマイキーは無言だった。ソファーに座る自分の膝の上にカノトを跨らせ、両手を腰に回して、ギュッと抱きしめ、顔を胸に埋めたまま、もう20分もこうしている。
「マイキーくん」
「……………」
「ね、顔見せてください」
「……やだ。すげー変な顔になってるから、カノぜってー笑う」
「笑いません。だってマイキーくんはどんな顔をしててもかっこいいって知ってますから」
「……………」
そっとマイキーは顔を上げる。
「!」
普段は滅多に泣かないマイキーが目に涙を溜めて泣きそうな顔をしている。それに少し驚いたカノトだが、ふと笑みを和らげ、微笑んだ。
「マイキーくん」
「……何。」
「助けに来てくれてありがとうございます」
「ウン……」
「守ってくれて、ありがとうございます」
「ん……」
「凄くカッコよかったですよ」
「…どれくらい?」
「え?」
「オレ…どれくらいカッコよかった?」
「世界一カッコよかったです」
「…宇宙一がいい」
「宇宙一カッコよかったですよ」
褒めるとまたマイキーは無言でカノトをギュッと抱きしめた。
「(やっぱり私の前では甘えただなぁ。)」
それすらも愛おしいと思ってしまう。
「オレさ…」
「!」
「記憶失くしてる間、ずっと心に穴が空いたような感じだったんだ。ケンチン達がいて、いつもと変わらない毎日を過ごしてるはずなのに、何かが足りなくて、ずっと考えてた」
「……………」
「でも記憶を取り戻した今ならハッキリ分かる。その"何か"はオマエだったんだって」
「私?」
「オレの中にいるオマエが消えて、病室で初めてオマエに会った時、オレが恋人だって言われただろ?あの時、正直、"何言ってんだコイツ"って思ったんだ」
「そう…だったんですね、やっぱり。」
「だからオマエの恋人であることをずっと認めたくなくて、拒絶して遠ざけた」
「……………」
その時の記憶を思い出し、カノトは悲しそうな顔を浮かべる。
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