第38章 君の代わりなんて誰ひとり
「わざと非常ベルを鳴らして客達を混乱させたはた迷惑な奴がいたのだと。そしたら彼奴が特別に見せてくれたのだ。事件が起こる瞬間、非常ベルの近くにいた人物が映っている防犯カメラの映像を」
ドクンッと悠生に緊張感が走る。
「そうしたらハッキリと映っておったぞ。非常ベルを押す瞬間の君の姿が。だから儂は彼奴に言ったのだ。"この者なら知っている"…と」
「え……?」
「彼奴に伝えておいた。そのはた迷惑な犯人なら今日儂の家にいるから迎えに来ると良い───とな。」
悠生の顔が真っ青に染まる。
「いやー!良い事をすると気分がいいな!どうだ零夜、久々に囲碁でも一局打たんか?」
「…お付き合いします」
「うむ!まだまだ若いもんには負けんぞ!せっかくだから何かを賭けるとするか!」
「賭け…ですか」
「お前が負けたら儂はまだまだ心叶と望を揶揄う事に精を出すぞ。だがお前が勝ったらあの子達を揶揄うのはもうやめるとしよう。そろそろお気に入りの玩具で遊ぶのも飽きてきた頃だしな!」
「……………」
「それとも勝つ自信がないか?」
「…いえ、勝つ自信はあります」
「ほぅ…儂に勝つ気でいるか。良いぞ!面白くなりそうだ!さて早速…」
ガッ
「……………」
尚登が腰に縋り付いてきた悠生を無表情で見下ろす。事の重大さに気付いた悠生は泣きそうな顔で尚登に助けを求める。
「ひ、尚登さん…た、助けてくれ…」
「助ける?何故儂が君を助けねばならんのかね?」
「!」
『この先のどこかで悠生くんが助けを求めたとしても、おじい様は何もしてくれない』
カノトの言葉を思い出す。悠生に一切興味がない尚登は助ける気すらないのだ。
「零夜、この者が逃げんよう空き部屋にでも閉じ込めておけ。それと盗んだ写真も回収しておけ」
「はい」
「い、嫌だ…!頼む!助けてくれ!俺はこんなところで終われない!まだ彼女に何も伝えてないんだ!」
零夜に押さえ付けられた悠生は涙を流しながら必死に尚登に訴えかける。けれど尚登に無視をされ、悠生は絶望の底に堕ちていった。
.