第38章 君の代わりなんて誰ひとり
「(…"ありがとう"か。)」
マイキーと共に去って行ったカノト。いつも無表情を崩さなかった零夜の口許が緩められ、ふと小さく笑った。
「…どういうつもりだよ。彼女と結婚できるって言うからアンタ達を信じたのに。結局あの子はアイツに奪われちまったじゃねーか…!!」
悠生は憎しみで顔を歪め、尚登と零夜を殺すような眼差しで睨み上げている。
「何で婚姻届を出さなかった!?アンタがあのまま提出すれば俺達は本物の夫婦になれたのに!!しかも婚姻届を破り捨てるなんて!!一体どういうつもりだよ!?」
立ち上がり、怒りで体を震わせる悠生。しかし二人は既に興味を無くしたような冷めた視線を悠生にぶつけた。
「どういうつもりも何も結婚の話は無しだ。あの子は彼奴を選んでしまった。すまんな吾妻君。悪いがあの子は諦めてくれ!」
「はぁ!?諦めろだと!?」
尚登は片手で"すまんのポーズ"をして、豪快に笑う。そのあっさりとした軽い謝罪に流石の悠生も腹が立ち、ギリッと歯を噛み締める。
「零夜、そこに落ちているゴミをすぐに片付けろ。それとあの小僧が放り投げた小刀も回収しろ。儂は疲れた。立ちっぱなしは老人の腰に響くわ」
「…承知致しました」
零夜はいつもの無表情に戻っていた。
「ふざけんなクソジジイ!!!」
「まだ何か不満があるのかね?」
「不満だらけに決まってんだろ!?何で彼女をアイツなんかに託した!?佐野万次郎!!あの男と一緒にいたら彼女まで不幸になるぞ!?なのに何で結婚の約束をアイツが彼女にしてんだよ!!早くアイツを捕まえろよ!!アンタらの仕事だろうが…!!」
「黙れ」
「っ!!」
その重い一言で、騒いでいた悠生がピタッと黙った。
「煩わしい声で喚くな。貴様はもう用済みだ。さっさと此処から出て行くと良い」
「ちょ、ちょっと待てよ…!!」
「時に吾妻君、儂は君に関しての良からぬ噂を小耳に挟んだのだが…」
「良からぬ噂?」
「儂の知り合いに警察官がいてな、こないだ会った時に彼奴が言っていたのだよ。先日起きたショッピングモールでの事件をな」
「!!」
顔色を変えた悠生を見て尚登はニヤリと笑う。
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