第38章 君の代わりなんて誰ひとり
涙を浮かばせて幸せそうに笑うカノトを見た零夜は、いつもの無表情を崩し、驚いた顔でカノトを見ている。
「巫山戯るなよ小僧。心叶は貴様のようなクズとは結婚せん。第一儂が許さん。どうしてもその子が良いと言うのなら、儂が心叶に似た少女を探してやろう。だから即刻、その子から離れろ。そしてすぐに此処から立ち去れ」
「コイツに似た女を探す?そんなの必要ねーよ。オレは本気でコイツと結婚する。たとえ世界中探したってコイツの代わりなんて誰ひとりとしているわけねーだろ」
「貴様、儂に歯向かう気か?宮村家を敵に回して無事で済むと思うな」
「そっちこそオレの大事なもんを散々苦しめといて無事で済むと思ってねーよな?コイツを傷付ける奴はオレの敵。東卍の敵だ。気が済むまでオレ達が相手してやるよ」
マイキーと尚登の睨み合いが続く。すると今まで傍観していた零夜が静かに口を開き、カノトに問いかける。
「心叶」
「!」
突然名前を呼ばれ驚く。マイキーから体を離したカノトは相変わらず冷たい目をしている零夜に見つめられ、鼓動が小さく跳ねた。
「彼との婚約を破棄してまで、その男と一緒にいたいのか?それでお前は幸せだと感じるのか?」
「はい」
カノトは嬉しそうに微笑む。
「私はこの人がいれば幸せなの。マイキーくんがいてくれるからこの先何があっても怖くない。私は彼と一緒に生きていきたい」
マイキーを見上げながら言うと、彼も嬉しそうに微笑み返してくれた。
「…そうか、それがお前の幸せなのか」
零夜はどこか納得するように呟くと、胸ポケットから折り畳まれた一枚の紙を開く。それは既に提出したはずの婚姻届だった。
「婚姻届!?何で持ってるんだ!?」
「…どういうことだ零夜。何故それを持っている?先ほど役所でお前が出して来た筈ではなかったのか」
「"出すフリ"をしました。尚登様が車で待っているを良い事に、私は婚姻届を提出せずこうして持ち帰ったんです」
これにはカノトとマイキーも驚いた顔をする。尚登は零夜に裏切られたことが許せないのか、不機嫌そうに顔をしかめた。
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