第38章 君の代わりなんて誰ひとり
「カノト!やっぱりそいつの傍は危険だ!そいつは君のことをちっとも理解してない!俺なら君の全てを理解してる!だからそんな奴の傍より早く俺の所に…!」
「テメェの傍に置いとく方がよっぽど危険だろうが。何がコイツの全てを理解してるだ。全然理解ってねーよ、オマエ。ストーカーみてぇにコイツに執着して、嫌がるコイツに何度も結婚を迫って。いい加減しつけぇんだよ」
「ストーカー?何言ってるんだ…?俺はストーカーじゃない。あんな奴らと一緒にすんな。それに彼女は嫌がってなんかない!本当は嬉しいのにそれを俺に知られたくなくてわざと嫌がるフリをしてるだけなんだよ!」
「本気でコイツが嬉しそうに見えんならテメェの眼は腐ってんな。早いとこ眼科行っとけ。あぁ、眼科じゃなくて精神科の方がいいかもな、今のテメェなら」
「何だと…?」
ピリついた空気が応接間に流れる。睨み合うマイキーと悠生。カノトは守られるようにマイキーの背中の服を掴みながら、憎らしげに悠生の悪事を伝える。
「マイキーくん、コイツですよ。あの日マイキーくんを階段から突き落とした犯人は。貴方を狙う為にわざと誤作動を起こして犯行に及んだんです」
「…そうか。テメェだったのか、吾妻。」
ギロリ…ッとマイキーの鋭い眼光が悠生に向けられる。
「はぁ?勘違いすんなよ。オレは突き落としたりなんかしてない。オマエが勝手に落ちたんだよ…!」
壊れたようにクスクスと嘲笑う悠生。マイキーは冷たい表情で憎悪を孕んだ目を悠生に向ける。
「あの事件でオレは記憶を失う羽目になった。しかもコイツと過ごした思い出だけが頭からすっぽりと抜けていた。そのせいで随分とコイツを悲しませた」
「(マイキーくん…)」
「吾妻…テメェ、どうやって死にてぇ?」
殺気を溢れさせるマイキーの瞳から光が消えている。その雰囲気に恐怖感を抱いた悠生はゴクッと生唾を呑み込み、緊張した面持ちでマイキーを見た。
そんな時だった───。
「そこで何をしている」
役所に婚姻届を出しに行っていた尚登と零夜が帰宅し、応接間にいる三人を見て訝しげな表情を浮かべている。
「誰?」
「この家の主ですよ」
マイキーは尚登を指さしながらカノトに素性を問いかけた。
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