第38章 君の代わりなんて誰ひとり
「(大丈夫…致命傷を避ければ最悪意識は手放すけど一命は取り留める。頸動脈の位置は首横を表面から3cm~4cm。それ以上深く切れば大量失血で死ぬ。)」
これでも一応、未来では看護師をしている。医者の知識には及ばないが、医療に携わる者として"首を切ればどうなるのか"くらいは知っている。
「(ふぅ…怖がるな。手元を狂わさなければいい。もうすぐ兄さんが来てくれるはず。私が血を流して倒れてもすぐに救急車を呼んでくれる。これ以上長引くと悠生くんが本気で私を捕らえようとする。)」
「カノト、そんな危ない物捨てなよ。君に傷が付くのは嫌だ。君の体には一切傷を付けてほしくないんだよ」
「君が私を諦めてくれるなら捨てる」
「それは無理」
「……………」
カノトは小刀を首横に当てる。
「(さっき…マイキーくんの為に怒っちゃった。もう失望したはずなのに…幻滅したはずなのに…やっぱりマイキーくんを嫌いになれなかった。あの人が与えてくれる愛が多すぎて、それを全部捨てられなかった。)」
捨てれば楽になるはずなのに捨てられない。"捨てたくない"って思ってしまう。カノトは自分が相当マイキーに惚れ込んでいる事に苦笑した。
「(これは私の我儘だけど…もし叶うなら、マイキーくんがまた私を好きになってくれたらいいな。)」
記憶を失くす前のマイキーくんに会いたい
あの人がまた私の名前を呼ぶ声が聞きたい
「好きって言って、優しく抱きしめてくれるマイキーくんに…会いたい」
「俺がいるじゃん。何でアイツのことばかり考えるんだよ。君を幸せにできるのは俺なんだよ。アイツじゃない。どうして分かってくれないんだよ!?」
「悠生くんじゃ私を幸せにできないよ」
「!!」
「だって私、これっぽっちも君のことなんか好きじゃないもの」
ニコリと嫌味っぽく笑う。
「(もし駆け付けてくれるのがマイキーくんだったら…なんて、一瞬考えてしまった。そんな願いはもう届かないのに。でも…助けを求めたら、あの雪の日のように守りに来てくれるかな。)」
来ないと分かっていても
どうしても求めてしまう
"助けに来たよ"って安心させてくれる声で
私を守りに来てくれる、"無敵のヒーロー"を
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