第38章 君の代わりなんて誰ひとり
「…いい加減にしろよ、このイカレ野郎」
「え?」
「あの人は絶対に負けないんだよ。勝手に勝利の女神にすんな。足元にも及ばないのは君だ。賭けたっていい。マイキーくんは君なんかに絶対に負けない」
怒りで頭がどうにかなりそうだ。
「それに何度も言ってんだろ。君との結婚なんて死んでも御免だっつーの。むしろ君に愛されて凄く迷惑。気持ち悪い」
「き、気持ち悪い…?」
「身勝手な愛を押し付けるな。私は君の幸せなんかいらない。君とは幸せにならない。その被害妄想に私を巻き込むな」
"26歳のカノ"が顔を覗かせる。
「私はマイキーくんと幸せになりたかった。あの人の傍にこれからもずっといたかった。たくさん思い出を作って、いろんな世界を二人で見たかった。なのに…それを全部壊したのは君だ」
コイツがマイキーくんを
突き落とさなければ
今も彼は私の傍にいたのに
「君は私の大切なものを奪った。世界で一番大好きな人を傷付けた。私から彼を引き離した君を…一生恨みながら生きてやる」
憎らしげに吐き捨てる。そしてカノトは良く分からない高級そうな掛け軸に歩み寄り、裏側にスッと手を差し入れた。
「何してんの?」
「うちって高価な物がたくさんあるから昔は強盗とか空き巣が侵入したことがあるの。今は全くそんなことないんだけどさ」
掛け軸の裏から何かを取り出す。
「でもおじい様が念の為に"護身用"としてこういう所に隠すんだ。何かあった時に自分の身は自分で守れるようにって」
「!」
その手には小刀が握られている。悠生は目を丸くさせて驚いた。
「隠す場所は定期的に変えてるんだけど、コレが今日ここに隠してあって良かった」
「それで俺でも殺す気?」
「殺す?勘違いしないで。私は人を助ける側なの。救える命を無駄にしない。言ったでしょ?これは護身用だって。自分の身を護る為に使うんだよ」
両手で持ち、ゆっくりと鞘を引き抜く。斬れ味の良さそうな刀身が光る。カノトはそれを見下ろし、ふぅっと小さく緊張の息を吐く。
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