第38章 君の代わりなんて誰ひとり
「突き落としたんじゃない、勝手に落ちたんだ」
「っ────!!!」
カッとなって悠生の胸ぐらを掴む。
「ふざけんな!!!」
怒りが最高潮に達したカノトは全く悪びれずに言った悠生をギロッと鋭い眼光で睨みつける。
「勝手に落ちた!?嘘ばっかり!!本当は君が突き落としたくせに!!」
「カノトだって困ってただろ?あんな奴にずっと付き纏われてさ。だから俺が救ってあげたんだ」
「何を訳の分からない事を…!!」
「俺は正しいことをしたんだよ」
「君の正しさは間違ってる!!」
「どうして?」
「君のせいでマイキーくんは記憶を失ったんだ!!私がどれだけ悲しかったか分かる!?私を手に入れたい為にそこまでするなんてどうかしてるよ!!」
「だってアイツから引き離さないと君は俺のものになってくれなかっただろ?それに記憶喪失になったなら好都合。これでもう君を奪われる心配をしなくて済む」
悠生は安心したように笑う。
「これで君をアイツから解放してあげられた」
本当に嬉しそうに涙を浮かべる悠生にゾッとする。胸ぐらから手を離し、距離を取った。
「絶対に許さない…」
静かな怒りが胸の中に渦巻く。
「マイキーくんをあんな目に遭わせた君を絶対に許さない…!!!」
「…何であんな奴のことなんか庇うの?」
スッと笑みを消し、こちらを見る悠生。
「アイツは君を危険に晒す。一緒にいたらダメなんだよ。だから俺と一緒に汚れた世界から抜け出して安全な場所で暮らそう。そうすれば君は二度と誰にも傷付けられない」
「……………」
「この先もずっと君を愛せるのは俺だけ。もし君がまだアイツの洗脳から解放されてないなら言って。俺が佐野万次郎をこの世界から消してやるから」
「君がマイキーくんを消す?ふふ…そんなの無理に決まってる」
「何で無理って決めつけるんだよ」
「だって"無敵のマイキー"だよ?君とあの人じゃ勝負にならない。マイキーくんの強さ見たことある?君なんて秒も掛からず一瞬でノされるよ」
「俺は負けない。だって君って云う勝利の女神が付いてるんだ。アイツなんて俺の足元にも及ばないよ」
それを聞いたカノトがプチッとキレる。
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