第38章 君の代わりなんて誰ひとり
「この先のどこかで悠生くんが助けを求めたとしても、おじい様は何もしてくれない」
「そんなの分かんないだろ」
「わかるよ。どれだけおじい様に苛められてきたと思ってるの?あの人は私がどこで怪我をしようが、どこで野垂れ死のうが、一切気にしない、そういう人なんだよ」
「苛められてって…大袈裟だな。尚登さんめちゃくちゃ笑顔で接してくれんじゃん。何でそんなに自分の祖父を毛嫌いすんの?」
「初めておじい様に会った時、人当たりの良さそうな顔で話しかけられなかった?」
「確かに話しかけられたけど…それが何?」
「ああ見えて実は、平気で人を貶めて、悪意を吐き散らす、最低な人なんだよ」
カノトが何度訴え掛けても、悠生は困った顔で"うーん…"と首を傾げている。
「尚登さんのやり方は卑怯だけどさ、俺はどんな形であれ、君を手に入れられることができて嬉しいよ」
「(ここまで話が通じないなんて!!)」
「それに邪魔者もやっと消えたしね」
「邪魔者…?」
「ねぇカノト」
「?」
「アイツはあれからどうなった?もしかして打ち所が悪くて意識不明の重体とか?」
「アイツ?」
「アイツはアイツだよ」
誰のことを言っているのか分からず、悠生を見ると彼はクスクスと笑っている。
「佐野万次郎」
「!?」
「階段から落ちたでしょ?非常ベルが鳴らなきゃ、アイツもあんなことにはならずに済んだのにね?」
「ちょっと…待って。え…?悠生くん一体なんの話をしてるの?非常ベル?それって、誤作動を起こしたっていうショッピングモールのこと?」
「まさかあんなに大騒ぎするなんて思わなかったよ。火事なんて起こってないのにさ。それを勘違いした客達が勝手にパニクって、逃げるのに必死になって。そしてアイツも避難しようとして階段から落ちるなんてさ…!」
「…悠生くんなの?あの日、あの場所でマイキーくんを階段から突き落とした犯人は…」
恐怖で顔が強張り、緊張で鼓動がドクンドクンと急速に脈打つ。
「アハハ、何言ってんの」
乾いたような笑いを零した後、口許をゆっくりと吊り上げ、瞳の奥に狂気を宿したまま、薄気味悪く笑ってこう口にした。
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