第38章 君の代わりなんて誰ひとり
「あれ…でもおかしいな。私が一人で写ってる写真もあるはずなのに、一枚もない…?」
どのページを見てもカノトが一人で写ってる写真だけが一枚もなかった。所々にスペースが空いていて、明らかに人の手で剥がされた形跡がある。
「おじい様かあの人が剥がした?でもこのアルバムはお母さんの部屋にあったはず。何でここに置いてあるの…?」
「──それはね、俺が尚登さんに頼んで持って来てもらったからだよ」
「っ………!?」
後ろから突然聞こえた声に心臓が飛び出るほど驚く。咄嗟に振り返ると、そこにはこの場にいるはずもない人物が立っていて、カノトは目を見開いた。
「え……?」
「久しぶりカノト。いや…本当は女の子だったんだよね、"カノちゃん"。」
「どうして…」
「はは、凄い驚いた顔。君を驚かせたくて隠れてたんだけどサプライズ大成功だ」
「悠生くん…」
カノトが入って来た襖から気配もなしに現れた悠生はニコリと微笑み、こちらに歩み寄って来ると、カノトが手に持っているアルバムを奪い、うっとりするような恍惚な眼差しで写真に写るカノトを見る。
「カノトは写真写りがいいんだな。どの写真も良く撮れてる。まるで天使のように可愛いよ」
「…どうして君がここにいるの」
「どうしてって…俺が君の婚約者だからに決まってるだろ」
「え?」
パタンッとアルバムを閉じた悠生がどこか歪んだ笑みを浮かべてこちらを向いた。
「……………」
悠生が口にした言葉に衝撃を受け、困った顔で聞き返す。
「ごめん…今なんて…?」
「俺が君の婚約者。今日から君は俺のお嫁さんになるんだ」
「…意味がわからない。悠生くんが私の婚約者?一体なんの冗談?」
「酷いなぁ…冗談じゃないのに。まぁ君が信じられないのも仕方ないか。婚約って言っても夫婦になったのはついさっきだしね」
ますます混乱し、戸惑うカノト。
「尚登さんが俺を君の婚約者に選んでくれたんだ。もちろん君のお父さんも承諾済みだよ」
「あの人達が悠生くんを結婚相手に選んだって言うの…?」
「そうだよ」
「そうだよって…」
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