第38章 君の代わりなんて誰ひとり
「尚登さんは見る目があるね。俺を婚約者に選ぶなんて。彼は良い人だな」
「(良い人?おじい様が?)」
「これで君は俺だけのものになった」
「……………」
嬉しそうに笑う悠生を見て顔をしかめる。そして不機嫌そうな声で言った。
「おじい様を良い人だと思い込んだ時点で、悠生くんは騙されてるよ」
「騙されてる?俺が?尚登さんに?」
「この結婚はおじい様が考えた私への嫌がらせなんだよ。"私のため"とか言ってたけど…本当は私の自由を奪う為に結婚させようとしてるに決まってる」
「自由を奪う為にか…」
「悠生くんがうちの人間になったら、ここで待っているのは地獄のような生活だけだよ」
「地獄?どういうこと?」
悠生はキョトンとした顔を浮かべる。
「もう今までの生活には戻れないってこと。朝から晩まで勉強漬けの日々だし、自由だって奪われる。逃げ出したくなるような辛くて苦しい毎日を送らなきゃいけない。そんなの嫌でしょう?」
「なんだ…そんなことか」
「え?」
「例え逃げ出したくなるような毎日でも、絶対に堪えられる自信があるよ」
「な、何で!?悠生くんが想像してるよりもずっとずっと大変なんだよ!?それなのにどうして笑っていられるの!?」
「だって君がいてくれるから」
「!」
ニコッと笑う悠生に違和感を感じた。
「(悠生くんって…こんな顔で笑うっけ?それにさっきから言ってることもなんかおかしいような…)」
「君の存在が俺の生きる証だ。君がいてくれれば何も怖くない。俺は君と結婚できたって云う事実だけで既に幸せなんだよ…!」
狂ったように喜ぶ悠生の表情にゾクッと体を身震いさせ、怖くて後ろに一歩、後ずさる。
「何で逃げんの?こんなに愛してるのに…何も怖がることなんてないんだ。俺は君の味方だよ!やっと君が俺を見てくれる!俺は君の運命の相手なんだ!だから一緒になるべきなんだよ!君はこれから俺と二人で幸せになるんだ…!」
悠生が手を差し伸べる。
「さぁ愛しいお嫁さん、俺の手を取って」
「悠生くん…ちょっとおかしいよ」
「おかしい?何がおかしいの?」
瞳孔を見開いたまま、怖い顔を浮かべる。
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