第37章 オレの『帰る場所』
「その方がマイキーくんも嬉しいでしょう?散々付き纏われた私から解放されるんだから。それに…私ももう疲れました」
ずっと握っていたネックレスをオーバーテーブルに置いた。
「ちょっと待て…」
「安心していいですよ。会いに来るのは今日で最後です。二度と顔は見せません。あの約束も…もう守らなくていいですから」
「なぁ…オレの話聞けよ」
「どうせ文化祭で交わした約束も覚えてないみたいですし。今となっては全て無意味になりました。私、マイキーくんの傍を離れますね」
ドクンッ
マイキーの心臓が嫌な音を立てる。
「どうぞこれからは彼女と一緒に楽しい思い出をたくさん作ってください」
「頼むからオレの話聞けって…」
パシッ
「!!」
一方的に喋るだけ喋って病室を出て行こうとするカノトを引き留めようと背中に向かって手を伸ばすが、振り向き様に強く跳ね除けられてしまう。
「触らないで。」
記憶を無くしたマイキーが初めて見た、凍えるような冷たい目を宿したカノトの拒絶だった。
「もう私のことは思い出さなくていいです。マイキーくんの言う通り、大した記憶でもないので。綺麗さっぱり忘れてください」
「忘れてって…」
「さようなら」
冷たく言い放ち、マイキーから目を逸らす。海凪の方をチラッと見ると、まだ状況を呑み込めていないのか、珍しく戸惑っている。
「(もうどうでもいいや。これ以上続けても私が惨めになるだけ。さっさと此処から出よう。)」
頑張ることを諦めたカノトは疲弊した顔でドアに向かって歩き出す。
「……………」
マイキーは何か言いたげな表情を見せるも、特に言葉を口にすることはなく、どこかやるせない気持ちで眉を下げ、視線を床に落とす。
ガチャッ
「おーすマイキー、見舞いに来てやったぞ〜」
その場に似つかわしくない呑気な声が聞こえた。マイキーのお見舞いに訪れたドラケンがドアを開ければ、ちょうどカノトと鉢合わせる。
「カノ、お前も来てたのか?」
死んだような目がゆっくりとドラケンを映す。
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