第37章 オレの『帰る場所』
「(そっか、携帯無くしてたんだ。この携帯結構使い込んでるわよね。確か待ち受けは万次郎の愛機だったはず…)」
海凪は携帯を手にし、パカッと開いた。
「!…バブじゃない?」
てっきりマイキーの愛機であるCB250Tを待ち受けにしたままだと思っていたのに、いざ開いて見れば、何故かメイド服を着た少女の待ち受けに変わっている事に驚く。
「もしかして万次郎の彼女…?」
前にマイキーが自慢していた。命を賭してでも守りたい存在がいると。
「(この子が万次郎の"宝物"…)」
"世界一可愛い"とベタ惚れする程のマイキーの恋人が画面に写っている少女だと海凪は気付く。
「(確かに可愛い。万次郎が自慢したくなる気持ちがわかる気がする。)」
そっと携帯を閉じ、ベッドの側にある椅子に腰掛ける。病室は静かな刻が流れ、窓から漏れる暖かな陽気が海凪を包み込む。
「(…あの時のアイツの顔、凄く真っ青で泣きそうな目をしてた。今にもあの綺麗な瞳から涙が溢れ出しそうな…。気を失って目を覚ませば救護室みたいな所にいて、万次郎がずっと付き添ってくれてて…アイツがアタシを突き飛ばしたんだと教えてくれた。)」
それが真実なのだろうとマイキーの言葉を信じようとする海凪だったが…
「(でも…"わざと"突き落としたなら、きっとあんな顔はしない。)」
気絶する前に見た、カノトの泣きそうな顔。もし故意だったなら、もっと海凪を突き落として怪我をさせた事への喜びを表情に出すはずだ。
「(でもアイツは逆だった。"故意じゃない"から、アタシを突き落として怪我をさせてしまった事への罪悪感と恐怖で混乱してた。)」
思考を巡らせていると太陽の暖かさで微睡み始める。
「(…暖かい。)」
次第に睡魔に襲われ、海凪はベッドに上体を預け、交差させた腕に頭を乗せ、ゆっくりと瞼を閉じた。
「(真兄…アタシ、どうしたらいいの。あの日から前に進めない。万次郎は大切な人を見つけて前に進む勇気をもらったけど…アタシは真兄じゃないと怖くて一歩踏み出せない…)」
脳裏を過ぎるのは昔の記憶。楽しかった日々だけを切り取った思い出。海凪は悲しい気持ちになり、目を閉じたまま下唇を噛む。
そして気付けば、夢の中へと堕ちていった。
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