第37章 オレの『帰る場所』
「碓氷さん…だったかしら?」
「!」
「昨日は災難だったわね。階段から落ちたって聞いたけど怪我はもう平気なの?」
マイキーのお見舞いに訪れた海凪が病室に向かう途中、前から歩いて来る看護師とすれ違い、声を掛けられ歩みを止める。
海凪は"気を失っただけなので"と素っ気なく答えると看護師は安心したような表情で"大した怪我もなくて良かったわ"と微笑んだ。
「今日も彼のお見舞い?」
「はい」
「毎日お見舞いに来てくれる彼女がいて佐野さんも嬉しいでしょうね」
二人を恋人同士だと勘違いしている看護師の誤解を解く為に海凪は"恋人じゃない"と訂正する。
「あら、そうなの?佐野さんと貴女、とてもお似合いだからてっきり付き合ってるんだとばかり思ってたわ」
驚いて目を丸くさせた看護師は片手で口許を覆った。"もう行っていいかな"と海凪がその場から立ち去りたいのを察したのか、看護師は"引き留めちゃってごめんなさいね"と困った顔で笑いながら更に言葉を続ける。
「さっき病室を覗いたら佐野さんいなかったの。きっと売店にでも行ってるんじゃないかしら?」
海凪は短く"そうですか"と返事を返す。
「それと佐野さん、明日で退院できるわよ」
「!」
「良かったわね」
ニコリと笑んだ看護師は"それじゃあ"と軽く会釈して、仕事に戻って行った。
「(そういえば万次郎の恋人はお見舞いに来てるのかしら。)」
病室のドアをガラッと開けると、看護師の言う通り、マイキーの姿はなかった。
ドアを閉めてベッドに近付くと、オーバーテーブルの上に置き手紙がおいてあり、その横には見覚えのある携帯が一緒に置いてある。
「(万次郎の携帯だ。)」
自然と手紙の内容が視界に入り、勝手に見てしまうのもどうかと思ったが、海凪はその手紙の内容を読んだ。
【警察の方が無くされた佐野さんの携帯を届けに来てくれました。何でもショッピングモールで落とされたのを親切な方が拾い、交番まで届けてくれたそうです。】
「(サービスカウンターより警察に任せた方が本人に届く可能性があるものね。)」
【身元確認の為、届けるのが少し遅れたそうですが無事に見つかって良かったですね。】
そう達筆な字で書かれていた。
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