第36章 気付けない狂気に支配されて
「……はい」
《やっと出たな!元気だったか!孫娘よ!》
「……………」
その煩わしい第一声を聞いた途端、何故か腹が立ち、露骨に顔をしかめた。
「(相変わらず腹立たしい声。)」
豪快に笑う尚登に思わず舌打ちしそうになったが我慢した。溜息を吐きたいのを抑え、不機嫌そうな声で言う。
「何故、番号を知っているんです」
《別に孫の電話番号を知っていても不思議ではないだろう?それより随分と死人のような掠れた声をしているな!寝起きか!?》
「(最悪…おじい様とあの人には知られたくなかったのに。)」
《…儂の渾身のボケにも反応せんとは…お前も冷たくなったものだ。それとも本当に寝起きか?》
「用件だけお願いします」
《それもそうだな!お前と長話をするほど儂は暇じゃない!さっさと用件だけ伝えよう!》
「(一々勘の障る言い方だな。こっちだって長話なんかしたくないっつーの。むしろ電話に出ずに着拒したかったよ。)」
平気で悪意を吐き散らす尚登に嫌悪感を憶え、不快げに眉を顰める。
《心叶よ、お前の結婚相手が決まった。》
「!?結婚はしないって断ったはずでしょう!?嫌だって言ってるのに貴方は無理やり私を結婚させたがる!!もういい加減にしてよ!!どうして私を縛り付けようとするの…!?」
《そうカッカするな。全く、お前は電話越しだと言うのに老人の鼓膜を破る気か?少しは声を抑えて怒らないか。》
うんざりするように口調を強めて怒り出すカノトの大声に、電話の向こうで尚登が呆れるように息を吐いた。
《それに儂は怒っているんだぞ。》
「はぁ!?怒りたいのはこっちだよ!!」
すると尚登の声のトーンが低くなった。
《お前、儂に嘘を吐いたな…?》
「え?」
心臓がドクンッと嫌な跳ね方をした。
「嘘?なんのことです?」
《その件も含めて話がある。これから迎えの車をそっちに寄越す。》
「!!」
《もちろん、来てくれるだろう?》
「……………」
《それとも断るか?この儂の誘いを。》
電話越しだと云うのに重苦しい威圧感が伝わり、思わず息を呑む。緊張からか、携帯を持つ手が小さく震えた。
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