第36章 気付けない狂気に支配されて
「(せっかく兄さんが朝ご飯作ってくれたのに全然お腹が空かない…。昨日も夕飯残しちゃって兄さんに心配かけちゃった。)」
ベッドに腰掛け、小さい溜息を零す。
「(なんか…もう疲れた。)」
頬にはマイキーに殴られてできた痣を隠す為に湿布を貼ったが、一日過ぎた今でも中々痛みは引かない。
「(マイキーくんの記憶は一向に戻る気配はないし、海凪ちゃんには怪我させちゃうし…何やってんだろ、私…。)」
昨日の事を思い出し、罪悪感が胸を締め付ける。
「(これ以上マイキーくんに会ってもまた怒らせちゃうし、少し距離を置いた方がいいのかな…)」
家のこともまだ何も解決してないのに
頭の中がぐちゃぐちゃになって
時間ばかりが過ぎていく
「…やっぱり、私達は一緒にいるべきじゃないのかな。離れた方がいいのかな。マイキーくんは…その方が幸せになれるかな」
『絶対に諦めんなよ。今は難しいかもしんねーけど、アイツは必ずお前のこと思い出す』
ドラケンの言葉が頭に響く。
「…諦めは悪い方なのに、今回ばかりは完璧に心が折れそうです、ドラケンくん…」
まさかマイキーくんが
私を殴るとは思わなかった
それほど彼女を傷付けられた事が
許せなかったんだろう
「痛い…頬も心も身体も、全部…痛いよ…」
きっともう…私が助けてって言っても
マイキーくんは助けに来てくれないだろうな
「(私のヒーロー…)」
彼が守りたい相手は
私じゃなくて海凪ちゃん
彼が大切にしているのは
私じゃなくて海凪ちゃん
「(マイキーくんが好きなのは、私じゃなくて…海凪ちゃん……───)」
自分で言ってて悲しくなった。
Priii…
「!」
傷心しきっていると携帯に着信が入る。
「っ!?」
相手を確認した瞬間、驚きの余り言葉を失った。電話の相手は尚登からだった。カノトは画面を見つめたまま、目を見開き固まる。
「(何で私の番号知ってるの!?)」
出るかどうか迷ったが、無視すると後々面倒な事になる為、仕方なく嫌々出る事にした。
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