第36章 気付けない狂気に支配されて
「…いえ、伺います。でも車の迎えは結構です。そこまで世話になる気もないので」
《うむ、いい心掛けだな!あぁそれと、望にも知らせておくと良い。お前のことで彼奴を除け者にすると怒るからな。》
「……………」
《向こうもお前との結婚を喜んでくれている。写真のお前を見て虜になっていたぞ!》
憐れむような笑いに冷めた瞳を宿す。
「おじい様」
《ん?何だ?》
「私は心底貴方が大嫌いです」
《わはは!直球だな!安心しろ!儂もお前のことが心底大嫌いだ!でも同時にお前達を気に入っているところもある。》
「気に入っているのは"からかい甲斐のある玩具"が壊れないからでしょう?」
《そうだな。孫達は皆、儂を慕ってくれている。だが従順過ぎて面白くないのだ。けどお前達は違う。》
嬉しそうに声のトーンが高くなった。
《昔から儂を毛嫌いし、憎くて堪らないと云った強い眼を二人して揃え、儂の言う事には反抗してばかり。そこが他の孫達と違って退屈しない!お前達が唯一、儂の退屈心を消してくれるのだ!》
「(だからアンタは平気で人の心を踏み躙り、心無い言葉で悪意をぶつけるのか。相変わらずイカれてる。)」
心の中で悪態を吐き、顔をぐっとしかめる。
《気に入った玩具は長く使っていたいのだ。だから簡単に壊れてくれるなよ?儂が退屈するだろう?》
「(嫌味ったらしい言い方…)」
電話の向こうでニヤリと笑った気がした。
「用件は済みましたね。切ります」
返事を待たずに強引にブチッと通話を切る。
「気分悪い」
そう言ってベッドから立ち上がった。
「…もう一回だけ、頑張ろうかな。マイキーくんにあそこまで酷く言われて諦めない私も私だけど…それでもやっぱり嫌いになれないよ」
机に置いてあるネックレスを手にし、カーディガンを取り出して羽織る。
「大丈夫、繋がりは消えない。どんなに心が離れても、諦めなければ必ず…想いは届く」
そう何度も自分に言い聞かせた。
「(一応兄さんに連絡入れておこう。でも兄さんが来るまでに何とか一人であの人達を説得したい。挫けるな、絶対に。)」
強く決心したカノトは実家に行く前にマイキーに会いに病院へと向かったのだった。
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