第36章 気付けない狂気に支配されて
「(これは神様が俺に与えてくれたチャンスだ。もう一度、カノトに想いを伝えて、今度こそ一緒になるんだ。)」
嬉し過ぎて口許がニヤける。
「(急展開に初めは驚いて頭がショートしたけどまさか好きな子がこんなにも簡単に手に入るなんて夢みたいだ。しかも俺が結婚相手に選ばれた嬉し過ぎる。嬉しい嬉しい嬉しい。どうしよう全然ニヤけが治まらない。カノトが俺の奥さん。絶対に欲しい何がなんでも欲しい。欲しい欲しい欲しい…ッ!!!)」
歪んだ恋が一気に膨れ上がり、狂喜を孕んだ目を宿す。悠生はニヤけた顔が見られないように下を向き、フーッ、フーッ、と鼻息を荒くして興奮する。
「ん?体が震えているが寒いかね?」
「い、いえ…大丈夫です」
嬉しさで声と身体が震え、どうにかして抑え込もうとするも無理だった。
「お、俺が…結婚相手でいいんですか?」
「もちろんだ」
「彼女には…結婚の話は…?」
「前に家に来た時にその話をしたんだが案の定、断られてしまった。だが安心しろ。あの子が儂の命令に背くなら従わせるのみ」
「…どうやるんです?」
「簡単だ。"結婚を受け入れざるを得ない状況"を作って、逃げ場を無くせばいい。そうすればいくら頑なに断っていた心叶でも君との結婚を受け入れるはずだ」
胡座を掻いた太腿に肘を立て、掌の甲で頬を支えながら尚登は意地悪くニヤリと笑む。
「(狂ってるけど…断る理由はない。彼女が永遠に俺のモノになって、ずっと傍にいてくれるなら別にどんな方法でも構わない。もし俺を好きになれなくても、アイツ以外愛せなくても、俺が一生、手放さなければいいんだ。逃げ出さないように縛り付けておくのもいい。)」
好き過ぎる余り、想いは更に強く歪み、自分自身で止める事すら出来なくなっていた。悠生は嬉しさが隠し切れず、膝の上で握った拳を小さく震わせる。
「(やっぱり俺達は結ばれる運命だったんだ。漸く俺の初恋が実る。ゆっくりと時間を掛けてカノトの心を俺に向けよう。あぁ…こんなに嬉しいのは生まれて初めてだ…!!)」
嬉しさやら喜びやらで舞い上がりそうになっている悠生を少し離れた場所から静かな眼差しで見据えている零夜。望に似た緑色の瞳の奥はゾッとするほどの冷たさを孕んでいた。
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