第36章 気付けない狂気に支配されて
「"檻"が必要なんだ」
「檻?」
「甘さが目立つ彼奴を閉じ込めておく為の"檻"だ。この家を出て自由な暮らしを手に入れた彼奴の振る舞いは"宮村家に"相応しくない。だから躾直す。他人に縋る弱さや甘えがどれほど惨めで愚かなのかを、もう一度あの子に教えてやらねばならんのだ」
「(結婚=檻って事か。このじいさん、カノトが嫌いなのか?嫌がらせにしては度を超えてんだろ。自分の孫を結婚っていう檻に閉じ込めて、自由を奪った上で、逃がさないようにしてんだからな…。)」
にこりと張り付けた笑顔を浮かべている尚登だが言っている言葉のほとんどが悪意に聞こえ、悠生は微かに眉を顰めた。
「…質問、いいですか」
「何だ?」
「どうして俺なんです?たまたま店で会ったからって即決で結婚相手に選びます?」
「即決、と言う訳でもないのだよ」
「え?」
「実はな、君の他にも儂が目星を付けていた候補者が多数いたのだ。そして君が来る前、そ奴らを集めて面接を行った」
「(俺以外にも候補者がいたのか…)」
『吾妻様も…候補に選ばれたのですか?』
「(あれはそういう意味だったんだな。)」
今になって美代子の言った言葉が理解できた。
「だが全員、"相手が未成年"という理由で断られてしまったのだ。それで最後の候補者である吾妻君をあの子の結婚相手に選んだという訳だ」
「俺が断ったらとか考えなかったんですか?」
「君は断らんだろう?絶対に。」
「!」
悠生のカノトを想う気持ちに気付いてるのかは定かではないが、尚登が見せた含み笑いに心臓がドキッと小さく跳ねる。
「……………」
「だが君まで断ると言うのであれば仕方ない。あの子は他の男に任せるとしよう」
「っ!ちょ、ちょっと待ってください…!!」
わざとらしく溜息を吐いた尚登に焦った悠生は目を丸くさせる。
「(カノトを他の男に…?)」
その瞬間、何故か脳裏に浮かんだのはマイキーの顔だった。
「(もしこのじいさんがアイツを見つけて、カノトの結婚相手に選んだら…本当の意味でアイツはカノトを手に入れることになる。それだけは絶対にダメだ!!アイツだけには渡さない───!!!)」
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