第36章 気付けない狂気に支配されて
「ちなみに…お孫さんの名前って…?」
「なんだ、表札は見なかったのか?ちゃんと書いてあっただろう?この家の表札に───"宮村"の苗字が。」
「!?」
「零夜、彼に写真を見せてやれ」
「(宮村って言ったか今…?うちのクラスに一人だけ同じ苗字の奴はいる。でもそいつは男だし…)」
零夜は考え込んでいる悠生に一枚の写真を手渡す。その写真に写っている"少女"を見た瞬間、悠生の顔色が今までで一番変わった。
「これって…!?」
空いた口が塞がらない悠生に尚登は言う。
「儂の孫娘───『心叶』だ。君も良く知っているだろう?」
「(知ってるには知ってる、けど…)」
信じられないと云うような驚きの眼差しで穴が空くんじゃないかと云うくらい、じっと写真の中のカノトを見つめている。
「……男じゃない?」
「あぁ、そうか。今は男の格好で生活しているが、あの子はれっきとした"女"だ。良く目を凝らして見るといい。君の知る『彼』と写真に移る彼女は雰囲気が似ていて、面影もそっくりだろう?」
「(確かに良く観察すると雰囲気も面影も似てる。髪長いの初めて見た…。そうか、女であることを隠して男装してたのか。どうりで男のクセにすげぇ美人顔だと思ったんだ。)」
写真に写るカノトは今より少し髪が背中まで伸び、服装も可愛らしい花柄のワンピースを着ている。ただ目線が外れている。きっと本人の知らぬ内に隠し撮りでもされたのだろう。
「あの子は母親に似て美人でな、男共から鬱陶しいほど声を掛けられるんだ。それが嫌で男装を始めたらしいが…それでも今度は美形過ぎて男達からは羨ましがられ、女性からは告白の嵐で余計にモテるようになったとか」
尚登が淡々と語っているが悠生の耳には届いていなかった。彼は取り憑かれたように写真の中で微笑みを浮かべるカノトをじっと見つめている。
「さて吾妻君、孫娘の顔を知ったところで話の続きだ。儂は君を心叶の結婚相手に選ぶつもりだ」
「まだ俺達は学生です。結婚よりまず段階を踏んでから…」
「それじゃあ駄目なのだよ。結婚が先、付き合いは二の次だ」
「どうしてそんなにアイツを結婚させたいんです?」
そう聞くと尚登はニヤリと笑った。
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