第36章 気付けない狂気に支配されて
「今、なんて言いました…?」
「うちの孫娘と結婚してくれ、と言った」
「……………」
聞き返してもやっぱり理解が出来なくて、思考が追いつかずフリーズする。そんな悠生を見た尚登は"クックックッ…"っと可笑しそうな声で顔を伏せて笑った。
「結婚って…俺が?」
「そうだ」
「本気で言ってます…?」
「本気じゃなかったらわざわざ君を家に招いて"孫娘と結婚してくれ"などとは言わんよ」
その言葉で冗談じゃないと分かった悠生の顔が途端に焦り出す。目を見開かせて尚登に抗議した。
「い…いやいや!?冗談ですよね!?話が全然見えないっていうか意味が分からないんですけど!?」
「ん?ちゃんと何度も言っただろう。うちの孫娘と結婚してもらいたいって。それで意味は通じると思うが…?」
「通じるとかそういう問題じゃ…」
「孫娘と結婚してくれ」
「!」
今度は強めの口調で押し切られ、悠生はぐっと言葉を詰まらせる。
「(結婚とかふざけんなよ!!何で会った事もない奴と結婚しなきゃいけねーの!?というかこのじいさん無茶苦茶過ぎて怖ぇんだけど…!!)」
予想外の展開に悠生も混乱し、驚きを隠せない表情で尚登を見ている。
「悪いが君の事を調べさせてもらったよ」
「え?」
「色々と調べていく内に驚きの事実を発見した。吾妻君、君は孫娘と同じ学校に通ってるそうじゃないか!」
「同じ学校!?」
「しかもクラスまで一緒!!これはもう孫娘と結婚しろと言っているようなものだ!!そう思わんかね?」
「……………」
「君こそあの子の伴侶に相応しい!!」
愉しげに声を弾ませて高らかに笑う尚登の空気に圧倒され、悠生は戸惑いを隠し切れなかった。
「(マジでやべぇかも…このじいさん、ちょっとおかしい。伴侶とかも意味わかんねーし。つーか同じクラスにじいさんの孫娘がいるって…まず誰だよそいつ。)」
さっさと話を終わらせて一刻も早くこの場から逃げ去りたい悠生。ドクンドクンと脈打つ心臓を感じながら、緊張で生唾を呑み込む。
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