第35章 壊れた愛の絆
「儂は店内を見て回っておるから、済んだら呼びに来てくれ」
「かしこまりました」
店に入った二人は別行動をとる。零夜は尚登に頼まれた若者向けの和菓子屋選びに。尚登は零夜が終わるまでの店内巡りに。
「(うむ、色々な和菓子が揃っている。柏餅に金つば、栗饅頭、水羊羹。ん?煉切りや落雁もあるのか。)」
棚に並んだ商品を物珍しそうに眺める。すると尚登の横に立った男がカステラをに手を伸ばし、カゴに入れた。
「蒸しカステラが好きなのかね?」
「え?」
「いやはや、急に声をかけてすまん。君のような若者が和菓子を選ぶのは少し意外だったものでな!」
「あー…好きというより、友達が甘いものが好きなので食べさせてやりたいなと思って」
「だったらこの『最中』も中々上手いぞ。和菓子のプロ達からも高評価を貰っていて、その味にも舌鼓を打つ程だ」
「へぇ、そうなんですね。ならコレも買って行きます。教えてくれて有難うございます」
「気にするな。美味しいものは独り占めするより、皆で味わった方が良いからな」
「俺も同感です」
男はニコリと笑い、尚登が勧めた最中も一緒にカゴの中に入れた。
「(ほぉ…中々の男前だ。望には到底敵わんがモテる人生を送っているな。チャラそうだが一から躾直せばそれなりに相応しくなりそうだ。)」
尚登は男に気付かれないようにニヤリと笑い、人当たりの良さそうな顔を浮かべる。
「実は儂の孫も甘いのが好きでな、子供の頃から"甘さだけを吸収して"育ったんだ」
「そうなんですね」
尚登の意味深な発言に気付かず、男は尚登の話に耳を傾ける。
「丁度孫も君と同じくらいの歳だ。もしかすると学年も一緒かも知れんな」
「お孫さんいくつなんですか?」
「14だ」
「あ、なら同い年です。俺も14で、中二なんで。なんか偶然ぽくないですね」
「これは何かの巡り合わせかも知れんな。君のような友達思いの若者と知り合えたのもきっと何かの縁だ。良ければ名前を教えてくれんかね?」
「名前?…吾妻悠生ですけど」
「吾妻君。儂は君に興味がある。是非ともうちの孫の話し相手になってやってくれないか」
「話し相手ですか?」
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