第34章 記憶から消えた君
「ありがとうございました」
お辞儀をする店員に見送られ店を出た。買った紙袋を顔の近くまで掲げ、喜ぶカノトの顔を想像し、マイキーは頬を緩める。
「(まさか誕プレが指輪なんて思わねーだろうな。アイツも期待してるって言ってたし、ぜってー最高の誕生日にする。)」
用事も済んで帰ろうとマイキーが階段を降りようとした時だった。
ジリリリリリ!!!!
「!?」
突然、耳を塞ぎたくなる程の大きな音がショッピングモール全体に鳴り響いた。
「何!?何の音!?」
「うるさっ!!」
不安を煽るようなベルの音に買い物を頼んでいた周りの人達も立ち止まり、驚いた顔で周囲を見回している。
《火事です、火事です。》
「か、火事!?」
「ちょっとやだ!!嘘でしょ!?」
聞こえてきたアナウンスに買い物客達の顔が一気に青ざめる。中には赤ん坊を抱いた母親や杖をついた高齢者もいた。
《二階トイレ付近にて火災発生。お客様は慌てず速やかに避難を開始して下さい。》
「(二階って…)」
「この階じゃない!?」
「きゃー!!」
「早く避難だ!!」
「巻き込まれたら大変だわ!!」
危険が迫る状況で、パニックになった客達が一斉に動き始める。"慌てず速やかに"の注意は何の効果もなかった。
「(やべえ。早く避難しねーと…)」
悲鳴が飛び交う中、マイキーも多少の焦りを感じ、急いで階段を下りようとした。
───ドンッ!!
「っ───!!?」
人混みに紛れ、背中を強く押された。落ちて行く瞬間はまるでスローモーションのようにゆっくりで、マイキーの体が宙に投げ出される。
「(あれ?オレ、落ちてる?)」
その瞬間、マイキーは大きく目を見開いた。
「(突 き 飛 ば さ れ た 。)」
階段の横には大きな長い鏡があり、そこからマイキーは目だけを動かし、階段の上を見る。
「!!」
ちょうどマイキーが立っていた場所に人影が一つ。その人物は落ちて行くマイキーを見て───ニヤリと笑っていた。
驚いて目を丸くさせるマイキーの体はどんどん落ちて行き…何故かその時、笑顔で笑うカノトの顔が思い浮かんだ。
.