第33章 すれ違い、こじれ始める。
「じゃあ先に玄関で待ってるぞー」
「ええ、すぐ行くわ」
マイキーが部屋を出て行ったのを見送る。
「万次郎が幸せそうで良かった。少し愛が変な方向に傾いてるけど。それで上手くいってるみたいだし余計な口出しは無用よね」
海凪は改めてマイキーの部屋を見回す。
「…真兄。万次郎とエマを守ってね。アタシの大切な二人を…これから降り注ぐ厄災から守って」
"幸せを守って───"
そう願うと海凪はマイキーの部屋を出てエマの部屋に上着を取りに行った。
✤ ✤ ✤
「(このグラス可愛い。上半分が薄い赤で下半分が薄い紫になってるんだ。)」
目的もないままバスに乗り、適当な場所で降りると駅前のバス停だった。その近くのショップに立ち寄り、色々見て回っていたら綺麗なグラスを見つけた。
「(たまたま入ったお店でこんな綺麗なグラスを見つけられるなんて…氷入れたらもっと綺麗に煌めきそう。)」
プレートには【星空グラス】と記されている。澄んだ夜空に広がるオーロラのようなグラデーションが幻想的なグラスを手に取り、眺めた。
「(心が落ち着く…。今日は手持ちがそんなにないし、バス代使う訳にもいかないから今度来た時にまだこのグラスがあったら買おう。)」
携帯のメモ機能を使い、忘れないように書き残し、グラスを元の場所に戻して何も買わずに店を出た。
「(あの人はおじい様の犬だ。飼い主の言うことには従順で、手に噛みついたこともない。だから自分の娘を守る気すらない。)」
『尚登様がお決めになったことだ』
「…ほんと腹立つ。何がお前の為だ。嫌がらせにも程がある」
「ティッシュお配りしてまーす!宜しければどうぞ!」
元気の良いお姉さんからポケットティッシュを貰う。今は使う必要がないためポケットに仕舞おうとした。
「ん?ティッシュの裏に何か入ってる?」
どこの広告かと思えば、駅前に出来た人気のケーキ屋だった。更にもう一枚、重なるようにしてクーポンまで付いている。
「え、クーポン使えばケーキが1個タダなの?確かこのお店って行列が出来ててなかなか買えないって有名じゃ…」
しかも期限が今日までだった。
「(これは買わねば!ありがとうティッシュ配りのお姉さん!)」
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