第33章 すれ違い、こじれ始める。
「めちゃくちゃ大好き。こんなオレと出逢ってくれてマジで感謝してる。アイツはオレにはもったいねーくらいの最高の彼女だよ」
表情を和らげ、愛おしげな眼差しで微笑む。
「万次郎のそんな顔、初めて見た…」
「オレの"宝物"なんだ」
「!」
「アイツはオレの宝物で…オレが命に代えても守りたい存在で…絶対に手放したくねぇんだ」
マイキーは掌を広げ、見下ろす。
「そっか…万次郎は前に進んでるんだね。アタシは…今も立ち止まったまま。独りじゃ一歩も踏み出せなくて…前に進めないの」
「……………」
「この部屋も昔と変わらない。真兄がいるみたいで落ち着く。今でも…"此処"にいるんだって錯覚しちゃう」
眉を下げ、悲しげに呟く。
「そんなはずないのにね?」
「海凪…」
「分かってるの。真兄はもういない。この世界のどこにも。でも…無意識に求めてしまう。あの人の姿を…あの頃の真兄を…」
切なげに顔を歪め、唇をキュッと結ぶ。
「オレだって…独りで前に進んでるんじゃねーよ。あれからどんなに時間が経っても、兄貴を失った心の傷は癒えねぇ…」
「万次郎…」
「でも…心の拠り所を無くして、そこから一歩も動けなくなったオレの手を…アイツが繋いでくれた。少しずつ一歩一歩、光のある道へと導いてくれるんだ」
掌を見つめ、自分の手を引いてくれるカノトの姿を思い浮かべる。ギュッと握り締め、マイキーは目を瞑る。
「その恋人が万次郎の支えになってるのね。万次郎の踏み出せなかった一歩が、その子のおかげで踏み出せるようになったんだね」
「あぁ」
「その恋人は、万次郎の無くした部分を補ってくれる存在でもあるのね」
「あいつの存在がなかったら、きっとオレは今も動けずにいた。あいつが…オレの最後の心の拠り所になってくれたんだ」
「それだけ大切に思ってるなら、もしその恋人が万次郎の前からいなくなったら…」
「いなくなんねぇよ」
「!」
「あいつはオレの傍を離れない。どんなことがあっても絶対に。オレの前から消えたりもしねえ。つーか、オレが離してやれない」
「やっぱり…愛が重いわ」
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