第33章 すれ違い、こじれ始める。
「大丈夫だ。必ず守ってやる」
「兄、さん…」
「心の準備は宜しいですか?」
「あぁ」
「……………」
美代子が床に正座し、両手を襖に掛ける。
「失礼致します。望様と心叶様がご到着なされました」
「入れ」
「(…いよいよだ。大丈夫、大丈夫。何も怖がる必要なんてない。逃げずに立ち向かうって覚悟を決めたんだから。)」
深呼吸を一つした。美代子が襖を開ける。そこには髭を生やした和服姿の祖父・尚登と、昔と変わらず冷淡な目を宿し、感情があまり顔に出ない無表情の父親がいた。
「(…嫌だな、この重苦しい空気。)」
「お久しぶりです。尚登様、父さん」
「…お久しぶりです」
マドカが張り付けた笑みを浮かべ頭を下げる。カノトも下げたくもない頭をマドカと一緒に下げた。
「おお!久しぶりだな!望!心叶!見ない間に随分と成長したな!」
二人を見た途端、尚登は人当たりの良さそうな顔で笑い、歓迎してくれたが、父だけは無表情のままだった。
「会いたかったぞ!私の可愛い孫達よ!」
「(嘘つけクソじじい。)」
心の中で毒づくマドカ。
「まあ座りなさい」
二人は尚登の前で正座をして座る。
「望。大学はどうだ?学業は順調か?友人はたくさんできたか?」
「お陰様で。学業の方も順調で、良き友人達にも恵まれたおかげで充実した大学生活を送ることができています」
「そうかそうか!それは何よりだ!お前は利口だし頭も良い。友達も良く選んでいるようで安心した!」
「(あ?"良く選んでいる"だと…?)」
尚登の無神経な言葉にマドカの片眉がピクっと跳ね上がる。
「心叶、お前はどうだ?学校は楽しいか?友達はたくさんできたか?」
「……はい」
「そうか!お前も充実した学校生活を送っているようだな!学業の方はどうだ?この家で学んだ事はしっかり活かされているか?」
「……………」
「お前は昔から甘えが体に身につき、それを理由に弱音ばかり吐いて望ほど役に立たんかったが、聞いた話では授業は真面目に取り組み、テストの成績も常に上位に名前が載っているらしいな」
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