第33章 すれ違い、こじれ始める。
「もしかしてその殿方って、前にお嬢様が着物を見せたいとおっしゃったお相手ですか?」
「…そうだね」
「きゃ〜!聞きまして坊ちゃん!ついにお嬢様にも特別な存在ができたんですよ!」
美代子は興奮してマドカの背中をバシバシと強めに叩く。
「痛ッ!?ちょっと美代子さん!!興奮し過ぎだから!!つーかコイツに男がいることは前から知ってるし!!あと声!!廊下に響いてるから!!マジで抑えて…!!」
「兄さんの声も大きいよ」
「ふふ、寂しいですねぇ坊ちゃん?」
「別に寂しくねぇけど…」
「素直じゃないですこと♪」
「……………」
「お嬢様」
「?」
「その方はちゃんとお嬢様を大切に思ってくれていますか?貴女の弱音や甘えを拒絶せずにしっかりと受け止めてくださる方ですか?」
ふと真剣な表情に切り替わった美代子はカノトに言う。
「うん、ちゃんと大切に思われてるよ。私の弱音も甘えも拒絶しないで全部受け止めてくれる。私が不安になってたり、泣きそうになってたら、傍に寄り添って"大丈夫だよ"って言って慰めてくれる優しい人なの」
「ちゃんと…愛されているんですね?」
「むしろ愛され過ぎて困ってるくらい。その人は私のことを一番に想ってくれて、私の為に生きてくれる。私が助けを求めたら、どこにいても必ず駆け付けて私を守ってくれるヒーローなんだ」
カノトは嬉しそうに笑う。
「そうですか。それを聞いて安心しました。もしお嬢様を傷付ける殿方だったら…地獄の底に突き落としてやろうと思っていました」
「み、美代子さん…」
「笑顔が怖ぇー…」
「でもお嬢様が絶賛する程の素敵な殿方です。きっとお嬢様にとって"全て"なのでしょう。いつかお会いしたいものです。お嬢様が好きになった殿方に」
「うん」
口許に笑みを湛え、嬉しそうに笑った。
「着いたぞ」
「!」
楽しい世間話は終わりを告げ、廊下を進んだ左側には襖があり、歩みを止める。
「(この中にあの人が…)」
急に緊張感と恐怖感が同時に襲い、顔を強ばらせたカノトは震える手でマドカの腕をギュッと掴んだ。
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