第33章 すれ違い、こじれ始める。
「(もう後戻りはできない。)」
時々、カコンッという手水鉢を打ち付ける獅子落としの音が聞こえる。
「まさか来て下さるとは思わなかったです。お二人はもうこの家には戻らないとばかり…」
「俺達も最初は来ないつもりだったけど、もし断ってコイツに何かされても困るからさ。あのクソじじいの思い通りになるのは正直癪だけど、大事な妹を守るためだ」
隣を歩くマドカが微笑み、カノトの頭の上にポンッと手を置く。
「ですがお嬢様まで無理してお越しにならなくても…この場所はお嬢様にとって…」
「私が兄さんと一緒に行くって決めたの。兄さんだけに背負わせるのはダメだと思うから。それに…いつまでも守られてばかりじゃ何も変えられない。だから逃げないことにしたの」
「…お嬢様」
真っ直ぐ前だけを見据えるその横顔に美代子は驚いた顔を浮かべる。
「(小さい頃は周囲の容赦ない言葉に傷付けられて泣いてばかりだったのに…)」
"本当に立派になられた"
美代子は嬉しそうに微笑んだ。
「今日の髪型、とても可愛らしいですね」
「!」
「髪の横が編み込みになっていて、お洋服もお嬢様らしくてとても素敵ですよ」
「ありがとう」
いつもはズボンを履く事が多いが、今日は実家に行く為、白いスカートを履いてきた。お気に入りのレースのスカートは品格があり、美しさを際立たせる。
「お嬢様はそういう感じのテイストがお好きなんですね」
「好きっていうか…その…」
マイキーくんが好きそうかなって…
「どうせアイツの好みだろ」
「兄さん…!」
「まぁアイツ獣だからお前がどんな服着ようが見境なしに襲いそうだもんな」
「ちょっと!マイキーくんはそんな人じゃないよ!」
"多分…"
自信なさげに心の中で呟く。
「まさか…お嬢様に殿方の存在が!?」
美代子は途端に目をキラキラと輝かせ、口元に手を当てた。
「ではその編み込みもその方のご趣味で!?」
「趣味というか…その人との約束だから毎日しているというか…」
「まあまあまあ!」
「(美代子さん…反応がまるで少女のよう。)」
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