第33章 すれ違い、こじれ始める。
「(さっきから彼女の名前ばっか…)」
一方的に喋るマイキーの会話の中で時々出てくる海凪の名前にどんどん苛立ちが膨れ上がり、海凪を褒めるマイキーの声すら煩わしいと思ってしまう。
「(やっぱりまだ彼女が好きなの?だから私の話より彼女の話をするの?)」
《あー…と、話が脱線したな。温泉旅行の日にち決めんだよな?いつにする?》
「私の───」
《万次郎。》
海凪の声に邪魔をされ、言葉が最後まで続くことはなかった。
《アタシがあげたCDってどこにある?久しぶりに聴きたいんだけど。》
《えーそっちの棚にねえ?》
《探してもないから聞いてる。》
「(…何で邪魔するの。今私がマイキーくんに…)」
携帯を持つ手にグッと力が入る。
《はぁ…じゃあオレも探す。…悪いカノ、ちょっと待ってて。すぐ戻る。》
「…いえ、忙しそうなので切ります」
《え?忙しくねぇって。探し物見つけてすぐ戻るから切んなよ?話もまだ途中だろ?》
「(それはマイキーくんが話を中断させるからでしょ。このまま話してても楽しくない…)」
《カノ?聞いてるか?》
「私のことは気にせずに碓氷さんが聴きたがってるCDを一緒に探してあげてください」
思ったより冷たい言い方になってしまった。
《…なんか機嫌悪ぃ?》
「別に」
《別にって…ぜってー怒ってるだろ。声もいつもと違って素っ気ねぇし。》
「怒ってないです。というか私が怒ってるかなんてマイキーくんには分からないじゃないですか」
《分かるに決まってんじゃん。どれだけオマエと一緒にいると思ってんの?声の変化にだってすぐ気付くし。》
「(でも海凪ちゃんの方が私といる期間より長いでしょう?二人は子供の頃からずっと傍にいた仲なんだから。)」
つまらない嫉妬だ。二人の関係性が羨ましくて、可愛くない事ばかり思ってしまう。
《すぐ戻るから電話、繋げとけよ。いい?》
「マイキーくん、本当に大丈夫ですから。彼女の探し物を優先してください」
《何でそんなに切りたがるんだよ…》
「また改めてかけ直します」
《だから切んなって!》
「邪魔しちゃ悪いので」
《は?邪魔って何が───》
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