第32章 好きな人の初恋の人
「着いたわよ」
「まさか神社まで送って頂けるなんて…」
海凪の案内でようやく武蔵野神社に到着した。ここまで長い道のりだったが、彼女が一緒だった為、退屈にはならなかった。
「本当にありがとうございます」
「だからお礼なんていい。途中で帰してまた迷子にでもなられると困ると思っただけ」
その素っ気ない態度にクスッと笑う。
「何で笑うの?」
「碓氷さんはクールで冷たい印象を抱きがちですけど本当はとても優しい人なんだなと思って」
「はぁ?何がどう優しいっていうの?」
「だって前に会った時、今度は助けないって言ったのに、こうしてまた僕が困っていたら嫌々ながらもちゃんと助けてくれたじゃないですか」
「……………」
「だから貴女はきっと誤解されやすい人なんだと思ったんです。碓氷さんのような人とお友達になれたら凄く楽しそう」
「友達?…冗談じゃない。アタシが周りからなんて呼ばれてるか知ってるでしょ?」
「?いえ…知らないですけど」
「『戦乙女』って聞いた事ない?」
「戦乙女…。あ、それなら知ってるかも…」
「知ってるならアタシに関わら…」
「前に兄と一緒にやった格闘ゲームのキャラに【戦乙女】という二つ名で華麗に大活躍する『キャシー』という女の子がいました!」
「は?格闘ゲームのキャラ?」
「僕、そのキャラを使い続けて兄さんに10連勝したんです!そしたら兄さんが泣きついてきてもうひと勝負したんですけどキャシーで勝っちゃいました!」
「………………」
「戦乙女って凄いですね!カッコイイ!」
「!」
キラキラと目を輝かせ、少し興奮気味に話すと海凪は驚いた顔で固まっている。
「ハッ!す、すみません…!一人でぺらぺら喋っちゃって!」
「…いいから、早くもう行って。」
海凪はぶっきらぼうに突き放す。カノトはペコっと頭を下げ、階段を登り始める。その時、ポケットから何かが落ち、海凪の前まで転がってきた。
「ねえ!落ちたわよ!」
だが声が届かず、カノトは神社の奥へと消えてしまう。
「……………」
落し物を手にしたまま海凪はじっと神社を見上げ、気まずそうな表情を浮かべた。
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