第32章 好きな人の初恋の人
「宮村、ちょっといい?」
「?」
休み時間、委員長に呼ばれたカノトは教室の外に呼び出される。
「どうしたの?」
「この旅行券、あげるわ」
「え?」
委員長が差し出したのは二枚のペアチケットだった。
「この前の文化祭の告白大会あったでしょ?その時に途中乱入した奴がいたんだけど優勝したにも関わらず、帰っちゃったらしいのよ」
「(え!?優勝したのマイキーくんなの!?)」
「だからこのチケットの譲り手がいなくて困ってるの。だからアンタ貰ってくれない?」
「その優勝した人って…」
「他校から来た奴らしいわよ。誰もが悠生くんの優勝だと思ってたのに…まさか飛び入り参加の男に全て持っていられるなんてね」
「……………」
「でも正直、あたしは悠生くんよりアイツの告白が素敵だったと思うわ。彼には申し訳ないけど…真っ直ぐで、とても愛に溢れた告白だった」
「うん…僕もそう思う」
「きっと彼女のことが大好きで仕方ないのね。周りの人達も皆、聞き惚れてたわ。彼に愛された彼女は世界一の幸せ者よ」
"だって…"と委員長は言葉を促す。
「『オマエを世界で一番愛してる』なんて…その子のことを本当に愛していないと簡単には口にできないでしょう?」
「そうだね。眩しいくらい真っ直ぐで、とても素敵で、世界で一番かっこよくて、彼に愛されてその彼女も凄く幸せだと思う」
嬉し過ぎて顔がニヤけるのを必死に抑える。
「自分のことでもないのに随分と嬉しそうね」
「そ、そう?」
「アンタ恋人は?」
「いるよ。とても大切な人なんだ」
「ならその恋人誘って行きなさいよ。チケットの有効期限、まだ先みたいだし」
「…委員長はいいの?」
「あたしはいいの。どうせ誘っても断られるのが目に見えてるから」
「え?」
そう言った委員長の瞳が悲しげに揺れた。
「嫌いな相手に誘われても向こうも嬉しくないでしょうしね」
「……………」
「話はそれだけ。じゃあね。」
素っ気なく言い放つと委員長は教室に戻って行った。
「(委員長、凄く悲しそうな顔してた。そう言えば…彼女の好きな人って誰だろう?)」
ふとそんなことが頭の中を過ぎった。
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