第32章 好きな人の初恋の人
「(まだあんな男と付き合ってるのか?アイツはダメだ。お前を傷付ける最低な男なんだよ。だから…早く別れさないと。)」
その時、狂気を孕んだ双眸が、カノトの首の後ろに向けられた。
「カノト」
「何?」
「首の後ろ、大きな絆創膏が貼ってあるけどどうしたの?」
「え!?」
ギクリと体が反応した。
「首の後ろ…?」
友人も椅子から立ち上がり、カノトの後ろに回り込む。そこには大きな絆創膏が貼られていた。
「デカい蚊にでも刺されたか!?」
「ほんと馬鹿だね。こんな大きな絆創膏を貼る程のデカい蚊なんているわけないだろ」
「冗談に決まってんだろうが!!オメーはいちいち腹立つんだよ!!」
やれやれと云うように呆れ顔を浮かべる悠生が深い溜息と共に首を横に振る。冗談で言ったつもりが本気に捉えられ、悠生の馬鹿にするような呆れ顔に友人は体を震わせて怒った。
「あー…友達の飼ってる猫に引っ掻かれちゃってさ。傷もまだ治らないから念の為、貼ったままにしてるんだ」
「どんだけ凶暴な猫なんだよ。そいつがオス猫なら間違いなくお前の美形に嫉妬して鋭い爪を出しちまったんだな」
「あはは…」
本当はマイキーくんが噛んだ跡を
隠す為のカモフラージュなんだけどね…
「本当に猫に引っ掻かれたの?」
「そうだけど…何で?」
「いや、首に絆創膏を貼るのって"簡単には消えない跡を隠す為のカモフラージュでもある"からさ」
「!?」
「でもうなじにそんな跡は付けないか。ごめん、今言ったことは気にしないで」
ニコリと笑う悠生の意味深な発言にぎこちない笑みで頷くのがやっとだった。
「それにしても余程嫉妬深い猫に引っ掻かれたんだね。気をつけた方がいいよ。カノトは肌が白いんだからさ。跡が残ると結構目立つよ」
「う、うん…気をつける」
「マジで気をつけろよー」
「(…やっぱりバレた。)」
「──本当は引っ掻かれてなんかないくせに」
「?悠生くん、何か言った?」
「何も言ってないよ」
声を低くして静かに呟いた悠生の声が聞こえず、聞き返すが、張り付けた笑みを浮かべる悠生に誤魔化された。
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