第31章 思い出は黒く塗り潰される
「もしかして…カノの家族か?」
一番最初に目に入ったのは子供の頃のカノトだった。今より髪が胸元まで伸び、どこか辛そうな顔をしている。
「(この全然笑ってねぇのがカノ?小学校低学年くらいか?)」
その隣にはカノトと手を繋ぐ、黒髪に緑色の瞳をした少年が写っていた。
「高校生のマドカさんだ。男装してるカノに似てすげぇイケメン…。喧嘩まで強いとか最強だよな」
マイキーは改めてマドカの凄さを実感する。
「(でも、なんだ…?どこか怯えるカノをまるでマドカさんが守ってるみたいに手を繋いでるのは気のせいか…?)」
心に引っ掛かる違和感を感じたが、マイキーはマドカの後ろに立って写っている女性を見る。
「(もしかしてカノの母親?カノに似てめちゃくちゃ美人!てか若っ!?え!?何歳!?母親…だよな?)」
実年齢にそぐわない若々しさがあり、下手するとマドカの恋人に間違われる可能性が大の美しさを併せ持つ。傍から見た人達はまさかこの女性が子持ちとは誰も思わないだろう。
カノトと同じ髪色にマドカと同じ緑の瞳を持つ母は愛する我が子達を愛おしげに見つめている。
「(カノも大人になったら母親みたいにめちゃくちゃ美人になんのかな。未来のカノか…すげー見てみたい気もする。)」
そしてマイキーは母親の隣に写っている人物に目を向け、どこか困った顔をする。
「…何で黒く塗り潰されてんだ?」
"これ"が写真を裏返した時に思わずマイキーが驚いて息を呑んだ原因だ。ピシッとしたスーツを着た男性の顔部分が、ペンで書いたのか、黒く塗り潰されている。
「…多分、父親…だよな?」
カノトの後ろに立っている父親らしき人物の顔が真っ黒な為、人相の判別は不可能だが、一つだけ、マイキーには分かった事があった。
「(すげー滲んでんじゃん…。どんだけ強い力で塗り潰したんだよ。裏面にまでペンを押し付けた跡が浮き出てるし。)」
ぐるりと部屋の中を見回す。
「(そうか…だからコイツの部屋には家族の写真が一枚も飾られてないのか。)」
マイキーは寝ているカノトに視線を向ける。
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