第31章 思い出は黒く塗り潰される
「なぁカノ…"誰が"オマエの寂しさを拒絶すんの?誰が…オレの世界で一番大切な女に孤独でいることを慣れさせてんの?」
優しい喋り方の中に"誰か"に向けた強い怒りを感じた。カノトは大きく見開いた紫色の瞳を揺らし、マイキーの言葉に泣きそうな顔を浮かべる。
「ふふ…マイキーくんは優しいですね。あの頃に貴方と出会えていたら…もっと早くに自由を手に入れられてたのかな…」
「…………。オレが優しいんじゃなくて、オマエが優しいんだよ。だからいつもオマエに甘えちまう。オレを拒絶しないから」
「しませんよ…マイキーくんが私の前でだけ甘えたになるの、好きです。」
「かっこいい部分のオレも見てほしいんだけどな〜」
「どんなマイキーくんでも好きですよ」
「オレもどんなオマエでも好きだよ。だからさ…話す気になったらでいいから…カノの子供の頃の話、聞かせて」
「私の…子供の頃の…」
「今までの話とか聞いてる感じ、きっとオマエは子供の頃、すげー苦しい人生を送ってきたんだと思う。さっきも表情が強張ってたし、声も少し震えてた」
「気付いてたんですか…」
「気付かない訳ねーじゃん。オレがどんだけオマエのこと見てると思ってんだよ。ちょっとの変化でもすぐ気付くわ」
"さすが"と苦笑する。
「オレなんかが簡単に踏み込んじゃいけねぇ事くらいは分かってる。けど…オマエのあんな顔見ちまったらもう…知らないフリはできねぇ。好きな女が傷付いて泣きそうな顔してんだ…放っておけるわけないだろ?」
「マイキー…くん…」
「好きだよカノ。どんなオマエでもオレはオマエを愛してる。だからもう…独りで頑張ろうとすんな」
「っ……………」
「寂しいって云う気持ちも、辛いって云う気持ちも全部、一人で抱えんな。今のオマエにはオレがいる。全部吐き出せ。オマエが助けを求める相手は、目の前にいるだろ?」
ポロポロと涙が溢れる。熱のせいで余計に涙腺が緩くなっているのか、一度流れた涙は留まる事を知らず、流れ続ける。
「っ、本当、は…寂しかったんです。兄さんがいない時間が…とても孤独で…家にいても独りぼっちで…寂しくて…」
「うん」
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