第31章 思い出は黒く塗り潰される
「(でも…マイキーくんに着替えを手伝ってもらうってことは…体を拭くのも手伝う内に入るってこと!?)」
パジャマを握りしめたまま、立ち尽くす。オロオロと狼狽えていると部屋のドアが開き、濡れたタオルを手にしたマイキーが戻って来た。
「何でそんなに慌ててんの?フラフラしてんだから大人しくしてなきゃダメじゃん」
「(どうしよう…)」
「ほら、タオル濡らしてきたぞ」
「あ、ありがとうございます」
「じゃあ早速脱いで♥」
「え!?」
「体、拭いてやるから」
「い、いいいいいです…っ!」
「こーら!逃げんな!」
ぶんぶんと首を振り、後退ろうとするカノトの手を掴み、強引にベッドの上に座らせ、自分も正面に胡座をかいて座る。
「ほんとすぐ逃げるよな。オレから離れたらダメだろー?逃げたら捕まえたくなるじゃん」
「うぅ……」
「安心しろよ。変なことはしねーから♪」
「顔が完全に悪戯っ子の笑顔なんですよぉ〜!」
両手で顔を覆い、うわぁんっと泣き真似を始めるカノトにお構い無しにマイキーはパジャマのボタンをプチプチと外し始める。
「熱出た時さ…いつも一人で孤独に堪えてんの?」
「え?」
「マドカさんも大学でいないこの家で…長い時間ずっと一人なんだろ?誰かに傍にいてほしいって思わねぇの?」
「…独りで堪えるしかなかったんです」
「え?」
「子供の頃はそれが当たり前で…兄さん以外は誰も心配してくれなくて…私が助けを求めても…誰も傍にいてくれなかったんです」
「……………」
「でも昔よりは寂しさとか辛さで誰かに助けを求めることもなくなりました。きっと…私の寂しさは…誰かの迷惑になる」
「誰の迷惑になんの?オマエの言う"誰か"か?」
「!」
「独りで堪えるしかない状況って…子供の頃どんな生活送ってきたんだよ?」
「……………」
「寂しさに慣れんな。辛さや苦しさに独りで堪えられねーんなら、オレを呼べ」
「マイキーくんを…?」
「オレに助けを求めろよ。寂しいから傍にいてってオマエが一言言えば、すぐにオマエの元に駆け付けて、抱きしめてやるから」
真剣な表情のマイキーの言葉に驚いて目を見張る。
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