第31章 思い出は黒く塗り潰される
「満足して頂けましたか?」
「今はな」
「(どういう意味だろう…?)」
「部屋どこだっけ?」
「そこの右側の部屋です」
「りょーかい」
部屋に入るとマイキーはカノトをベッドの上に降ろしてくれる。
「ありがとうございます」
「まだ照れてんの?」
「照れてません…」
「熱で赤いのか、恥ずかしさで赤いのか分かんねーな」
意地悪っぽく笑うとマイキーは買ってきた物をテーブルに並べる。飲料水や柑橘系のゼリーに果物まであった。
「本当に色々買ってきましたね」
「どれが利くのか分かんなかったからケンチンがメモってくれたリストに書いてあったやつ全部買ってきた」
「(さすがドラケンくん。)」
「ゼリーとか食えそう?」
「はい」
「ミカンとモモどっちがいい?」
「じゃあモモをお願いします」
桃のゼリーの容器を取ると蓋を剥がし、付いてきたプラスチックのスプーンで寒天と一緒に桃を掬い、口元に近づけてくれる。
「あーん」
「じ、自分で食べられます…!」
「ダーメ。カノは病人なんだからオレに素直にあーんされてればいいんだよ。ほら、口開けろ。早くしねぇと零れる」
「……………」
「後マスク取れ。このままだと食えねぇだろ」
食い下がる気はないマイキーに仕方なく、マスクを外して、あーんしてもらう。パクっと口に入れた桃の甘さが味覚を刺激する。
「ん、甘くて美味しい」
「もぐもぐしてんの可愛い〜♥」
へにゃ〜っと顔を緩ませて嬉しそうに笑うマイキーの言葉に照れる。
「なんか餌付けしてるみてぇ」
「犬じゃないですよ…」
「可愛くわんって鳴いて」
「マイキーくん?」
「冗談だって。はい、もう一口あーん」
クスッと笑うマイキーはもう一度、ゼリーをカノトの口元に運ぶ。"マイキーくんが言うと冗談に聞こえない…"と内心思いながら二口目を食べる。
「(っと…そうだ。汗臭いだろうから早く着替えようと思ってたんだった。)」
「カノの部屋初めて入ったけど、小物とか多いんだな。あの窓側の棚の上に飾ってんのクリスマスにオレがプレゼントしたプリザーブドフラワーだろ?」
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