第31章 思い出は黒く塗り潰される
「もう!そういう問題じゃない!」
「絶不調の割に元気だな」
ケラケラと笑いながらマイキーはカノトを抱き上げたまま靴を脱ぎ、廊下を進む。
「お、重いから…降ろして…」
「は?どこが重いんだよ?むしろ逆に軽すぎてビックリなんだけど」
「あ、汗掻いてるんです!臭い…とか!」
「汗臭いから降ろせって?」
「そ、そう…」
「……………」
早く降ろしてほしいと思っていると、マイキーの顔がボタンが開いた胸元に寄せられる。肌にマイキーの鼻がくっつき、すんっと匂いを嗅がれた。
「臭くねぇよ。優しい匂いがする。」
「っ〜〜〜!!!」
口をぱくぱくと開閉させる。
「臭いを嗅がないでください!?」
「カノが汗臭いかもーとか言うから確かめてやったんじゃん」
「誰も頼んでません…!!」
「だから暴れんなって!」
「(汗の匂い嗅がれた!!もう臭いって言ってるのに何でわざわざ嗅いだりするの!?)」
「まさか怒ってる?」
「…怒ってますよ。マイキーくんってば、汗臭いって言ってるのに匂いを嗅ぐなんて…」
「髪が首に張り付いてすげーエロい」
「すぐそういう思考に持っていく!ていうか私の話聞いてませんね!?」
「聞いてるって。でも仕方ねーじゃん。カノの胸元のボタン開いてんの見たらエロい気分になっちゃったんだもん」
「なっ……!」
「つーか今襲わなかったオレを逆に褒めてほしいくらいなんだけど?」
「病人を襲うなんて…!」
「ね…一回だけ、首にちゅってしていい?」
「ダメです」
「一回だけ。軽くするだけ。な?」
「汗掻いてるのでダメです」
「絶対に一回でやめるから!」
「……もう。絶対に一回だけですよ?」
「うんうん」
「本当に分かってます?」
「カノ、大好き」
横抱きにしたまま、カノトの汗ばんだ首筋に顔を寄せ、軽くちゅっとキスをした。
「んっ」
唇を押し当てられ、ピクっと小さく反応をする。本当に一回だけの約束を守ったマイキーは満足そうな顔を浮かべていた。
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