第31章 思い出は黒く塗り潰される
「マドカさんはきっと大学だし、今家にはアイツ一人だろ?もしかすると熱に魘されて苦しんでるかもしれねーじゃん!」
「お前が見舞いに行ったところでカノに追い返されるのがオチだぞ。それに病人なんだからお前が変に騒いでアイツの具合を悪化させたらどーすんだよ」
今にでも屋上を飛び出して行きそうなマイキーをドラケンは引き留める。
「けど心配なんだよ。アイツがオレに助けを求めてるかも知れねぇだろ?恋人のオレが何もしてやれねーのは嫌だ」
「……………」
「アイツが不安な時はオレが傍にいるって決めてんだ」
そう言って静かに笑うマイキーにドラケンは自分の携帯を取り出し、必要な物リストを打ち込むと、そのメールをマイキーに送る。
ピロン♪
「!」
「ほとんどコンビニで揃えられる。あんまアイツに迷惑かけんなよ。それとカノにお大事にって伝えとけ」
「さんきゅーケンチン!」
「何かあったら連絡しろー」
携帯を握り締め、ダッシュで屋上を飛び出して行ったマイキーを見送る。
「どんだけ好きなんだよ。さっきまで返信が来ねぇって不貞腐れてたくせに」
ふと小さな笑みを浮かべたドラケンは青空を見上げ、その笑みを消した。
「…あいつ、今頃どこで何してんだろうな。てっきり…"アイツ"の傍にいるもんだと思ってたのに…」
独りごちるドラケンの表情はどこか悲しげだった。
✤ ✤ ✤
「ん…暑、い…」
寝苦しさから目を覚ましたカノトは既に温くなった冷えピタを触る。
「…冷たくない」
替えの冷えピタを取りにリビングまで行こうとベッドから上体を起こせば、肩まで布団を被っていたせいで、汗で体がベタついていた。
「気持ち悪い…着替えなきゃ…」
すると枕元に置いてある携帯にメールが届いている事を知り、確認する。
「マイキーくんから…?」
"今からお見舞いに行く!"
「え!?今から!?」
驚きの内容に衝撃を受け、目を見開く。慌ててマイキーに電話を掛けるが留守電に繋がった。
「出ない…困ったな。風邪移すと大変だし、本当は追い返したいんだけど…」
どうしようか悩んでいると家のインターホンが鳴った。
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