第31章 思い出は黒く塗り潰される
「(もし、またあの人が兄さんから自由を奪うつもりなら…絶対に私が兄さんを守る。)」
あんな奴らに
兄さんの日常を奪わせない
「(今度は私が兄さんを守る番だ。)」
そう心に強く決めた───。
「おかゆ出来たぞー」
「わぁ、美味しそう」
「水と薬も一緒に置いとくな」
「ありがとう兄さん」
「熱いからちゃんと冷ましてから食えよ」
「うん。後は大丈夫だから兄さんは大学に行って?遅刻しちゃうよ」
「やっぱり一人で家に居させるのは心配だから俺も休もうかなぁ」
「それはダメ」
「即答だな!?だって可愛い妹が誰もいない家で一人ぼっちなんだぞ!?」
「慣れてるから平気」
「そこは慣れんな!!カノちゃんだって兄ちゃんがいなかったら寂しいだろ!?」
「ううん」
「ガーン!!」
「(そこで肯定しちゃうと調子に乗りそうだから黙っておこう。)」
「う、嘘だよな…?俺がいなくても平気なんて…そんな悲しいこと言わないよな!?」
えぐえぐと泣き出すマドカに暑苦しさを覚えたカノトは呆れ顔で言った。
「兄さんが休むなら私、学校行くから。兄さんが止めても行くからね」
「それは絶対にダメ!」
「(まぁ冗談だけど。)」
駄々を捏ねるマドカを何とか説得させて、熱々のおかゆをレンゲで掬い、冷ましながら口に運ぶ。
「(美味しい…ほかほかする。)」
「じゃあカノ…俺もう行くけどマジで何かあったら連絡しろよ?我慢すんなよ?」
「分かってる。行ってらっしゃい」
「行ってきます…」
名残惜しそうにこちらを見ながら部屋を出て行くマドカを見送った。
「(静かだ…)」
人の気配がなくなると余計に部屋が静寂に包まれる。お盆に乗った土鍋のおかゆを時間を掛けてゆっくり噛み、平らげた。
「…ご馳走様でした」
冷えピタを貼ったまま、食べ終わった食器をリビングまで運び、流し台に置いて、部屋に戻る。
「あー…本当にしんどい。そうだ…薬。確か兄さんが水と一緒に…あった」
硝子の瓶に入った錠剤を掌に出し、ペットボトルの蓋を開けて、水と一緒に流し込んだ。
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